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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2026.01.06

ビールと食を通じて「奄美を世界に」~AMAMI PRIDE~ 奄美ビール

第2回の趣旨
アグリサポート研究会は、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトに掲げている。
第10期の第2回研究会では、鹿児島県・奄美大島地域における観光依存からの事業転換と、ブランド構築による成長戦略をテーマに、奄美ビールの代表取締役である平泰造氏にご講演いただいた。
奄美ビールホームページはこちら
https://amamibeer.com
開催日時:2025年12月4~5日

はじめに

平氏は、地元徳之島の出身である。高校卒業後、証券会社や不動産業でのキャリアを経て、2019年に前身となる奄美DNAを設立した。

同社は奄美大島で、観光客をターゲットとした郷土料理店「かめ」を開業したが、2020年に発生した新型コロナウイルス感染拡大の影響により、経営に大きな打撃を受けることとなった。

次なる事業を模索する中、2022年6月に事業再構築補助金に採択。2023年1月に「AMAMI BEER HALL」を開業し、同年7月より醸造を開始した。2023年には現在の「奄美ビール株式会社」へと社名変更を行い、新体制での再スタートを切った。現在は、ビールと食を通じて「奄美を世界に」発信することを目指し、企業理念に「AMAMI PRIDE」を掲げている。

奄美ビールの企業理念 出所:奄美ビールホームページ 奄美ビールの企業理念
出所:奄美ビールホームページ



奄美ビール誕生の経緯

観光客に依存していた飲食事業は、コロナ禍によって売り上げが減少しただけでなく、奄美特有の季節による需要変動という課題も浮き彫りとなった。こうした状況において同社は、経営の新たな柱としてクラフトビール事業に着目した。

主要国におけるビール総販売量に占めるクラフトビールの割合を調査したところ、米国が13.6%、豪州が9.3%であるのに対し、日本はわずか1.2%と低水準であり、将来的な成長の余地(伸びしろ)が大きい点に着目した。

日本の地ビールは誕生から約30年が経過し、過去の淘汰を経て市場が成熟に向かう一方、コロナ禍以降は開業数が再び増加傾向にあった。こうした市場環境の変化も踏まえ、営業現場へのヒアリングに基づき、奄美大島における大手ビールの販売量を約350万リットルと推定。このうち「100杯に1杯がクラフトビールに置き換わる」と仮定しても、年間3.5万リットルの需要が見込めるという試算を導き出した。初期投資のリスクについては、事業再構築補助金の採択によって緩和できる見通しが立ったことも最終的な参入への意思決定を後押しした。

奄美ビールでは、奄美群島の素材を使用したクラフトビールを製造 奄美ビールでは、奄美群島の素材を使用したクラフトビールを製造

奄美唯一の地ビール居酒屋レストラン「AMAMI BEER HALL」 奄美唯一の地ビール居酒屋レストラン「AMAMI BEER HALL」

オンリーワンポジションの確立

小さな市場でも先駆者は優位性を確立できる。同社は、「奄美群島のクラフトビール」を事業の軸に据えた。

徳之島の黒糖、すもも、たんかん、ハブなど、地域特有の原材料を10種類のラインナップに採用。「奄美らしさ」を明確化し、ストーリー性のあるブランドを訴求するとともに、専門メディアやコンテストなどの「第三者評価」を積極的に獲得することで、信頼と浸透を加速させている。

供給面では、島内外の卸しや新規ホテルの需要に合わせた安定供給体制を構築。価格競争を避け、「地域×専門性」の二重の差別化で比較軸をずらし、独自の価値基準を明確化している。

現在、シーズナル(季節限定商品)を含め10種類のクラフトビールを製造 現在、シーズナル(季節限定商品)を含め10種類のクラフトビールを製造

10種類のクラフトビールの説明 10種類のクラフトビールの説明

世界観×体験価値×コミュニティー形成

「どこで、誰が、なぜつくるのか」という物語を語れるブランドが選ばれる。「AMAMI PRIDE」という世界観の中心には、ローカル・コミュニティーの熱量を据えている。

「体験が物語を実体化する」という考えを軸に、今後は空港での試飲、ブルワリー見学、レストランでのペアリングを通じ、インバウンドを含む愛好家へ体験価値を提供する構想だ。

コミュニティーの熱量を販売力へと変換し、沖縄土産市場へのOEM供給、輸出、見本市出展など、外部市場への展開を加速させる。物語と体験の一貫性がリピーターの共感を育て、地域発の持続可能な成長へとつながるモデルを学ぶことができた。

店内には受賞したメダルが飾られている 店内には受賞したメダルが飾られている

PROFILE
著者画像
平 泰造 氏

奄美ビール株式会社 代表取締役