タナベコンサルティングの『成長M&A』実践研究会では、M&Aバリューチェーンを主題に、譲受・譲渡の双方が学び合い、仕組み化と実装を通じて企業価値を高める方法を探究する。複数回のM&Aを前提とした体制づくりを重視する。
今回は「M&Aバリューチェーン」をテーマに、AZ-COM丸和ホールディングス株式会社 井上徹氏を迎え、株主のみならず顧客・従業員・取引先・社会を見据えた、ステークホルダー視点の実践要諦を考察した。
開催日時:2026年2月25日(名古屋開催)
はじめに
AZ-COM丸和ホールディングスは、小売特化の3PLと輸配送を基軸に、ラストワンマイルや専用センター運営まで機能を拡張し、Amazonやマツモトキヨシなどの荷主を支えてきた。低温・医薬領域やBCP機能を備えた食品センターの整備実績もあり、2030年5000億円、2040年1兆円の売上目標、メーカー物流への進出と海外展開を掲げている。
井上氏は、これらの達成にはM&Aが不可欠である一方、あくまで“手段”に徹し、株主だけでなく顧客・従業員・取引先・社会の「五方良し」を基準に意思決定すべきだと述べた。
本講演では、リーマンショック下でも買収を断行や買収合戦におけるTOB撤退した事例、のれん減損の他社ケースとその教訓、経産省指針を踏まえ、長期価値を生むM&Aの条件を抽出した。
物流事業を通じて社会に貢献することを重視しており、その成果としての利益との考え方が会社の文化・風土として深く根付いている
M&Aは手段、全社戦略と一体化
経営戦略→事業戦略→参入選択→M&Aという筋道で整合性を図る枠組みを提示した。
経営戦略・事業戦略の注力分野を先に定め、内部開発・提携・M&Aを比較し、「時間を買う」効果と戦略との整合で進めることが肝要だと井上氏は説く。
過去助言した事例紹介では、リーマンショックで企業価値評価が困難なシチュエーションでも、長期の事業戦略に合致する案件として買収を断行した事例を示した。
10年以上経過した今、その買収した事業は売上利益を大きく伸ばし、企業グループの象徴的サービスに成長、株主の長期リターンにも結びついた。

事業戦略(何をしたいのか)が最も重要であり、経営者・ボードメンバーの認識と合わせるプロセスが必要になる
投資規律と五方良しの意思決定
他社の傾向としてのれんの減損事例が相次いでいる。これらを教訓として、自社で同じ事態に陥らないように原理・原則に立ち返って判断をしている。
井上氏は、EV/キャッシュフロー倍率の上限を設定しつつ(目安として8倍超は要警戒)、のれん負担による大幅な価格転嫁や顧客離反、賃上げ余力への影響などを投資規律として強調する。
「五方良し」を踏まえると、売手株主の利益追求は止められないが、企業成長に繋がらない売却先への譲渡は望ましいとは言えず、企業価値向上に資する買手であることを売手株主・対象会社の取締役会およびステークホルダー(従業員・取引先)に訴えかけていくことが重要と考える。提案や交渉の場では、減損ケースからの学びと共に、このことを発信している。

売手株主にとってはプラスでも、顧客にとってマイナスであるという視点を織り込んだ提案・交渉を実施
資本政策偏重を排す「価値ガバナンス」
挑戦の裏で多くの企業がのれん減損に直面し、上場企業は中期経営計画達成プレッシャーから資本政策が事業戦略を凌駕する局面が生じている。2026年には経産省が株価のみでの判断を戒めた。
井上氏は資本市場の論理だけで企業価値は完結しないこと、経産省指針や買収諾否の価格偏重是正も考慮に入れ、理解した経営戦略と「事業戦略と勝ち筋」の検証が重要であると指摘する。
「商品・サービス価値が高まるか」を真剣に考え、M&A戦略を選択することが企業価値の持続的な向上と市場からの信頼獲得に繋がっていくのである。

必ずしも上場基準と資本市場の基準が一致しているとは言えない。
本当の意味での企業成長に挑戦していくことが必要
AZ-COM丸和ホールディングス
事業企画第二部長