「四方よし」の連続的M&Aにより、非連続の成長を実現 戦略からソーシング、PMIまでの仕組みを紹介 スターティアホールディングス
タナベコンサルティングの『成長M&A』実践研究会では、M&Aバリューチェーンを主題に、譲受・譲渡の双方が学び合い、仕組み化と実装を通じて企業価値を高める方法を探究する。複数回のM&Aを前提とした体制づくりを重視する。
今回は、2007年から約20件のM&Aを積み重ね、2025年度からは年間4〜5件の積極的M&Aへと転換したスターティアホールディングス株式会社のM&A推進・マーケティング部長 石田拓己氏にご登壇いただいた。
「四方よし」という不変の理念を軸に、マーケティング思考を取り入れたソーシングの仕組み化、案件評価の型化、PMIの標準化まで、連続的M&Aを実現するための体制と実務が詳述された。
開催日時:2026年2月25日(名古屋開催)
はじめに
スターティアホールディングス株式会社は、東証プライム上場企業として、中小企業向けにITインフラ事業(オフィスネットワーク・電力等)とデジタルマーケティング事業(営業・マーケティングDX支援)の二軸で事業を展開する。現在、持分法適用会社を含むグループ11社・約1,000名規模に成長しており、中小企業5万社超の顧客基盤を強みとする。
同社の成長の核心は、「中小企業の未来機会を創造する」というミッションに基づいた連続的M&Aにある。創業期のOA機器販売から出発し、顧客基盤の拡大を目的とした買収と、その顧客に届けるサービスの拡充を目的とした買収を組み合わせながら、ストック型ビジネスを着実に積み上げてきた。2025年度からは、3年間で売上290億円・M&Aによる80億円上乗せを市場に公表し、「盤石M&A」から「積極M&A」へと明確にギアを上げた。
この転換を支えるのが、マーケティング出身の石田氏が主導する「M&Aをマーケティングする」という発想である。理念を守りながら再現性と科学性を持たせる仕組みをいかに構築するか。本講義では、その全体像が戦略・ソーシング・案件評価・PMIの順に開示された。
「四方よし」の理念が、M&Aの失敗を防ぐ最大の防壁である
同社がM&Aを2007年から約20件積み重ねながら大きな失敗を経験してこなかった背景には、「四方よし」と呼ぶ不変の理念がある。買い手がいかにウィン・ウィンの設計を確信していても、社員への告知の瞬間に不安が立ち込めるのはどの案件でも共通して起きる現象だと石田氏は述べた。
こうした現実を踏まえ、同社はM&A先の顧客・社員・取引先・経営者の四者が確実にウィンになる状態を設計し、一つでも欠ける場合はやらないという判断を徹底してきた。グループインした企業の社員定着率は8割以上を維持しており、新卒3年離職率が30%に達する昨今の環境と対比しても際立つ数字である。
数値目標を市場に公表した現在も、理念に照らして合わなければやらないという姿勢は変わらない。今年度だけでも多数の案件を見送ったと石田氏は明かした。持続的成長に必要な条件として、M&Aの量的拡大と理念の堅持は矛盾しない。理念こそが連続的M&Aを安全に加速させる最大の防壁となる。
「顧客を買う×サービスを買う」の二軸戦略が、M&Aに明確な目的を与える
M&Aを繰り返し実行するには、「なぜその企業を買うのか」という目的が案件ごとに明確でなければならない。同社のM&Aの起点は、ITインフラ事業の顧客基盤をさらに広げることにある。OA機器販売会社をグループインして顧客数を増やし、その顧客に自社サービスやM&Aで取得したサービスを展開する。この「顧客を買う」と「サービスを買う」の二軸が戦略の根幹をなすと石田氏は説明した。
具体的には、チャットボット事業を譲受後、自社のアプリストア型プラットフォームに載せることで広告なしにサービスが成長する仕組みを確立した。2020年3月以降に増加した顧客の約4割がM&Aによるものであり、「顧客を買う」戦略の成果が数字として可視化されている。
石田氏は「M&A先のことを知る前に、自社の事業・サービスの全体像を深く知ることが不可欠だ」という見解を示した。持続的成長に必要な条件として、M&Aの目的を戦略起点で定義し、顧客拡大とサービス拡充の両輪を意識的に回し続けることが求められる。
M&Aをマーケティングする――ソーシングをファネルで科学する
「積極M&A」へ転換した2025年以降、同社が最初に直面した課題は接点の作り方にあった。そこでマーケティング出身の石田氏が持ち込んだのが「M&Aをマーケティングする」というコンセプトである。再現性と科学性をM&Aプロセスに持ち込み、属人的な出会いに依存しない仕組みを構築しようとした。
具体的には、マーケティングのファネル構造をソーシングに適用した。仲介会社との提携数・アクティブな関係を持つ仲介会社数・リード数・IM検討数・経営ボード検討数・最終契約締結数という段階をファネルとして可視化し、各ステップの数値目標と改善施策を分解して管理する体制を整えた。
さらに「3か月以内に案件を紹介いただけたパートナー数」を独自指標として設定し、仲介会社の脳内シェアを維持するための定期的なコンタクトを徹底していると石田氏は述べた。
石田氏は「入口の数が少ないのか、勝率が低いのかを区別できなければ的外れな施策を打ち続けることになる」という見解を示した。持続的成長に必要な条件として、M&Aのソーシングを「待ちの営業」から「設計された仕組み」へと転換し、ファネルの各段階を数値で管理することが、連続的M&Aの再現性を高める基盤となる。
スターティアホールディングスのM&Aによる成長イメージ
スターティアホールディングス株式会社
M&A推進・マーケティング部長