【第4回の趣旨】
デフレからインフレ経済へと移行する中で、企業が適正な利益を確保し成長するには、新たなファンを創造することが不可欠である。そのためには、営業活動の一環としてではなく、中期ビジョン実現の一環として顧客創造を捉え直し、仕組み・体制・制度を経営者主導で構築する必要がある。顧客創造モデル研究会では、顧客創造の仕組みだけでなく、体制や制度にも注目し、時代に合った“顧客創造モデル”を実現している企業を研究する。第4回では、HILLTOP株式会社、一般社団法人京都試作ネット、株式会社クロスエフェクトの3社にゲスト登壇いただいた。
開催日時:2025年8月27日(京都開催)
はじめに
HILLTOPは「製造業を夢と誇りを持てる、誰もが憧れる業界に変革する」をビジョンに掲げ、1961年に京都府で創業したものづくりメーカーである。独自の生産管理システム「HILLTOP System」を駆使し、アルミの切削加工による試作品製作や、多様な業界の研究開発支援など、圧倒的な速さと技術力を武器に独自の価値を提供している。特に注目されているのは24時間無人で行う多品種単品加工だ。独自の生産システムによりプログラマーを介さずデータ入力のみで製造する。大手企業の研究開発部門など、これまで加工が困難だった複雑形状の試作品を1個からでも発注できる仕組みにより、日本のものづくりの開発期間短縮とイノベーションの加速に寄与している。その革新的な取り組みは高く評価されており、Forbes JAPANの「SMALL GIANTS AWARD」グランプリをはじめ、数々の賞を受賞している。
HILLTOP本社外観
出所:HILLTOP 採用ページより
「理解と寛容」の人材育成モデル
HILLTOPが実践する経営モデルの根幹には、「人を育てる」という最優先事項がある。同社では利益や効率、社会貢献といった要素以上に、人の成長そのものを事業の目的と位置付けている。人の成長を促す具体的な仕組みが、「ルーティンワークからの解放」と積極的な「ジョブローテーション」である。これは、かつて自動車部品の大量生産に従事した際、人間性を奪うような単調作業を「人間が“バカになる”」と痛感した経験から生まれた。そのため、たとえ一時的に効率が低下するリスクを負ってでも、社員が常に新しいスキルに挑戦できる環境を提供している。これにより、多様なスキルを持つ「多能工」が育ち、急な欠員が出ても事業が滞らない。
また、社員の挑戦を後押しする文化も特徴的である。80%の達成度でもまずはその挑戦を称賛し、次への一歩を促す。このような社風によって、一人一人が人らしく成長し、自ら考える力が養われている。
社員一人一人の成長を促す職場環境
出所:HILLTOP 採用ページより
多品種単品生産における永続的利益創出システム
同社の特長は、月間4000品種にもおよぶ「多品種単品生産」に特化している点にある。受注の約8割が「1個か2個」という極小ロットであり、これは一般的に「儲けにくい」事業領域とされる。しかし、あえてこの領域を追求することで、他に類を見ない付加価値と持続的な利益を創出する。この独特なビジネスモデルを支えるのは、独自の生産管理システム「HILLTOP System」だ。全ての加工ノウハウがデータベース化され、加工プログラムの安全確認はバーチャルシミュレーションで完結する。これにより、通常2、3年の経験が必要なプログラミング作業が大幅に簡略化・自動化され、人の経験や記憶に頼らない技術の継承と標準化を実現。過去の記録を基に、即座に高単価かつ無人での製造ができるため、過去に製造した製品の約4割が、再び少量で発注されるという。このデジタル記録に基づく再現性と、24時間稼働を可能にする無人化こそが、業界平均を大きく超える20%以上の利益率を支えるコアコンピタンスなのである。
「人を育てる」ことが、HILLTOPの実践する経営モデルの根幹
挑戦と未来を創造する顧客開拓戦略
既存の事業領域(ストライクゾーン)に留まらず、常に新たな市場を模索し、創造することを経営戦略の中心に据える。これは、経営学者ピーター・ドラッカーの「事業の目的は顧客の創造である」という思想の実践に他ならず、短期的な利益追求よりも未来の市場と顧客を開拓することに注力する姿勢の表れである。そのため、同社は困難で直接的な利益につながらない仕事にも積極的に挑戦する。例えば、アーティスト「B’z」の稲葉浩志氏のマイクスタンドや松本孝弘氏のエフェクター、世界最速のPCR検査装置、さらには明治時代の肖像彫刻の復元など、その開発実績は多岐にわたる。これらの挑戦は、無形の価値を生み、ノウハウを蓄積する貴重な機会となる。この未来志向は、展示会の出展内容にも見て取れる。まだ実現していない未来の「やりたいこと」を具現化した挑戦的な試作品を、展示することで、自社の潜在能力と未来への展望を顧客に提示し、新たな市場と顧客の創出へとつなげる。こうして絶えず顧客の創造と技術革新に挑み続けることこそ、同社の持続的な成長を支えるエッセンスであると言えよう。
HILLTOPが復元した明治時代の肖像彫刻
出所:講演資料より

相談役