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研究リポート
コンシューマービジネス研究会
変容する社会課題や顧客課題を的確に掴み、ドメインとバリューチェーンの拡大を切り口にした新たな「ライフスタイル価値」を創造するための真髄に迫ります。
研究リポート 2025.09.03

オンリーワンポジションを築いた戦略と商品へのこだわり オタフクソース

【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングのコンシューマービジネス研究会第5回は、「ナンバーワンブランドに挑む」をテーマに開催した。
タナベコンサルティングは、次の3点を提言している。
❶自社のブランド価値を見出す
❷ブランディングすべき事項の特定
❸顧客創造力を磨き上げる
未開のマーケットを開拓し、非顧客を顧客化するために最も重要な戦略アプローチがブランディングである。今回は、ゲスト講師企業2社の講義・視察から企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を軸としたブランディングについて学んだ。
研究会参加者は、自社の存在意義・ミッションをゲスト企業2社の講演を受け、自社の企業価値や商品価値を高めるブランディングの重要性や、オンリーワン・ナンバーワンポジションへの挑戦手法について理解を深めた。

開催日時:2025年5月23日(広島開催)

 

 

「粉もの文化」を世界に広める

 

「お好みソース」で知られるオタフクソースは、 1922年に創業し、さまざまなソースや酢、たれなどの調味料の開発・製造・販売を手掛ける「100年企業」である。同社は「食を通じて『健康と豊かさと和』をもたらし、笑顔あふれる社会に寄与する」という企業理念のもと、安全・安心な品質を追求したものづくりを行っている。

 

近年では、海外市場の顧客ニーズに応えるため、米国や中国、マレーシアに工場を設立し、グローバル基準でのものづくりを実現している。

 

また、お好み焼をはじめとする「粉もの文化」を世界に広めるため、多様な食習慣や食文化に柔軟に対応し、国内外で信頼されるブランドを目指して普及活動を展開している。

 


広島県の本社工場と栃木県の日光工場で製品を製造。数多くの商品ラインナップをそろえる

 


 

「お好み焼文化」の共創を通じた体験型ブランディング

 

コーポレートスローガン「小さな幸せを、地球の幸せに。」のもと、同社は食文化を広めるための「コト売り」を掲げ、お好み焼の普及活動を通じてオタフクブランドを創出している。

 

例えば、お好み焼館「Wood Egg」では、お好み焼の歴史や文化を紹介する「おこのミュージアム」のほか、キッチンスタジオや体験スタジオでお好み焼教室を開催。また、小学校での食育、親子お好み焼教室、幼稚園へのキャラバンカー出店に加え、広島・原爆の日(8月6日)の平和記念式典に出席した各国大使にお好み焼作りを体験してもらうといった活動により、年間で約1万5000人にお好み焼文化を伝承している。

 

単なるソース販売(モノ売り)にとどまらず、お好み焼業界全体の盛り上がりや発展を目的に、積極的な活動を行っているのだ。

 

国内にとどまらず、海外でも普及活動を積極的に行い、お好み焼を「OKONOMIYAKI」として世界へ広げることで、鉄板粉もの文化の認知度向上に寄与している。


オタフクソースとお好み焼の歴史を学べる、お好み焼館「Wood Egg」。4階の研修センターでは、お好み焼を作る新入社員研修や、開業支援研修を実施。2023年5月~2024年2月には開業支援研修を35回開催し、109名の卒業生を輩出した

 

 

現場主義・顧客視点で信頼されるブランドを構築

 

同社は、顧客の声を年間5000件以上集めて商品開発に反映し、ユーザーとの共創を推進している。「ブランド=水面上の流氷=地道な活動の結果である」という考え方のもと、オタフクのブランドづくりよりも「オタフクのファンづくり」に注力している。

 

従来、多くの顧客がお好み焼体験に参加する仕組みは存在していたものの、継続して顧客とつながる手段がなかったことから、2021年にコミュニティーサイト「オタフクラブ」を開設。 2025年5月23日時点の部員数は6524名で、粉もの商品やオタフク商品の魅力を発信して語り合うことにより、同社とユーザーだけでなく、ユーザー同士のつながりによる価値創出も試みている。

 

また、同社はクラブ内のインフルエンサーの投稿などを、市況を見る判断材料としても活用しているという。

 


年間5000件以上の顧客の声を集め、商品開発に反映する仕組み
出所:オタフクソース講演資料

 

 

日本文化の象徴としてのグローバル展開と地域密着

 

同社は、海外方針「Okonomiyaki & Sauce」のもと、日本で培ったビジネスモデルを海外でも実践し、日本のソース文化と味を広めている。その一環として、世界的に有名な人気アニメ「NARUTO-ナルト-疾風伝」とのコラボ商品や企画を展開。さらに、各国でお好み焼提案会や試食会、勉強会、料理学校・海外研修センターでのお好み焼体験などを通じて普及活動を行い、多くの外国人にお好み焼や日本のソース文化に触れる機会を提供している。

 

また、インバウンド需要の増加に向けた施策として、試食・体験の機会を創出し、インバウンド向けの商品開発・展開を進めている。

 

国内では、学校の社会科見学の受け入れ先として、工場見学やお好み焼館「WoodEgg」の見学を積極的に実施し、広島のお好み焼文化を次世代に継承する取り組みを行っている。

 


米ニューヨークで開催された日本のポップカルチャーの祭典「Anime NYC 2023」に出展 出所:オタフクソース講演資料

PROFILE
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大内 康隆 氏
オタフクソース株式会社
執行役員 共創本部 副本部長 兼 マーケティング部 部長