【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングのコンシューマービジネス研究会第5回は、「ナンバーワンブランドに挑む」をテーマに開催した。
タナベコンサルティングは、次の3点を提言している。
❶自社のブランド価値を見出す
❷ブランディングすべき事項の特定
❸顧客創造力を磨き上げる
未開のマーケットを開拓し、非顧客を顧客化するために最も重要な戦略アプローチがブランディングである。今回は、ゲスト講師企業2社の講義・視察から企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を軸としたブランディングについて学んだ。
研究会参加者は、自社の存在意義・ミッションをゲスト企業2社の講演を受け、自社の企業価値や商品価値を高めるブランディングの重要性や、オンリーワン・ナンバーワンポジションへの挑戦手法について理解を深めた。
開催日時:2025年5月22日(広島開催)
「筆は道具なり」という信念のもと、最新の筆を開発
出所:白鳳堂講演資料
化粧筆のトップブランド
白鳳堂は、約200年の筆づくりの歴史を持つ広島県・熊野町で1974年に創業し、月産50万本に上る筆を全て広島県内の自社工場で生産する、化粧筆のトップブランド企業である。同社の生産能力を支えるのは、伝統技術を応用した工程の細分化と道具化であり、機械化するのではなく、ぬくもりのある「人の手」で良質な道具である筆を作り上げている。
同社は自社ブランドだけでなく、国内外の大手化粧品メーカーやメークアップアーティスト系ブランドにも化粧筆をOEM提供しており、安全かつ安心で高品質なものづくりを行っている。ブランド価値を重要視し、価格競争ではなく「クオリティリーダーシップ」を実践することで、高価格帯ながらもユーザーから高い支持を得ている。
研究会参加者は、自社の「こだわり」を守り続けながら、新たな挑戦に日々挑む同社の常務取締役・高本光氏から、ブランディングとグローバル戦略について講義を受けた。
人の手で1本ずつ、丁寧に検品作業を行う
出所:白鳳堂講演資料
品質追求によるブランディング
熊野の筆づくりは、明治以降に学校教育の普及に伴い需要が増加し、昭和には硬筆学習の普及の影響も受けて需要が継続した歴史がある。1960年代から1980年代にかけては好景気で大量生産が進んだ時期があったが、このタイミングで品質が犠牲になることもあった。
仕事に筆が必要な人々の「良い道具が見つからない」という声を受け、日本の伝統文化を支える筆を再び「道具としての筆」に戻したいとの思いを持ち、同社の創業者は品質を重視して独立を決意し、現在に至っている。
品質は機械だけでは担保できない人の手による技術が求められ、筆のバランスを取るためには非常に手間がかかる。この手間を省略することなく作ることによって、同社の筆は毛先を切らなくて良いため、肌あたりが良く、均一に化粧ができる。この一見では効率化すべきと考えられる領域にこそ、付加価値の源泉がある。
現在も会長自らが全数検品を実施するなど、品質への徹底したこだわりが製品の評価につながっている。この姿勢を維持・継続してきたからこそ、ユーザーや取引先から「信頼感と安心感」を獲得できており、これが同社のブランディングの礎となっている。
本社内の店舗スペースには多種多様な製品が展示されている
伝統工芸と革新の両立による市場開拓
同社は面相筆(主に日本画や水墨画、陶芸、漆芸などの細部を描くために使用される筆)を主力製品とする中で、自社の維持継続のために事業領域を拡大する必要があり、化粧筆の領域に参入した。伝統工芸の職人が使う道具を絶やさないための取り組みを維持しつつ、道具としての筆が求められるさまざまな領域へ適応を行ってきたのである。
筆づくりという日本の文化を支える取り組みと、自己実現の手段としての化粧道具、趣味(書・画・ホビー)として暮らしを豊かにするための道具など、各シーンで求められる「道具として機能する筆」を追求し、新たな市場・ユーザーの声を聞き、柔軟かつ革新的に対応を進めてきたことにより、各市場で高い支持を得ている。シーンに応じた「道具としての価値」を追求する姿勢が、新市場を生み出す原動力となっている。
伝統工芸の道具としてさまざまなシーンで活用される筆
出所:白鳳堂講演資料
信頼を高めるブランディング戦略とグローバル展開
同社には、高品質な筆を安定して量産する取り組みを継続することで、「信頼」というブランディングを構築してきた歴史がある。信頼は重要なブランディングの要素であり、さらなる信頼を獲得するためにもブランディング戦略に力を入れている。例えば、日本の伝統工芸の領域においては雑誌『ふでばこ』を定期発刊し、工芸の紹介を行ってブランド価値を高めている。
海外市場へのアプローチにおいても、伝統技術の理解促進は重要な要素であり、道具としての「化粧筆」、日本の文化を支える筆を作る会社の「化粧筆」、道具としてきっちりと機能する「化粧筆」というイメージを訴求することで、開発力・生産力・企業としての姿勢に信頼を獲得し、戦う土壌を形成している。
国内生産による日本人の手づくりでしか表現できない製品として「Made in Japan」を前面に押し出し、欧米・東南アジア・東アジアなど各国に展開し、海外からも高い支持を得続けているのである。
海外での展示事例
出所:白鳳堂講演資料