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研究リポート
ホールディングス・グループ経営モデル研究会
6つのホールディング経営タイプをベースに、新たなグループ企業を研究します。自社がどのようなホールディングスモデルとして進化するのか、共に考えましょう。
研究リポート 2025.08.08

自走する組織を育むガバナンスモデル ロイヤルホールディングス

【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会第5回では、「ガバナンスモデル 自走するための権限移譲と必要なガバナンス体制」というテーマのもと、厳しい経営環境において中堅・中小企業が持続可能な成長を実現するための具体的な戦略を探求する。
また、実践的な知見を得ることで、自社の経営改善に役立てることを目的としている。

開催日時:2025年5月30日(東京開催)

 

はじめに

 

企業が持続的成長を実現するためには、長期的な視点と戦略的なアプローチが不可欠である。特に、人口減少やコストの上昇といった逆風に直面する中堅・中小企業にとって、持続的成長を実現するための戦略は重要な課題だ。

 

ロイヤルグループは、持株会社制への移行を通じて、既存事業の整理と磨きこみや、新規事業の開発、テクノロジーの活用などの取り組みを行ってきた。これらは、企業が市場環境の変化に適応するための重要な要素である。

 

特に、長期ビジョンの策定やポートフォリオの多様化は、企業の競争力を高めるための基盤となる。これらのポイントを踏まえ、企業が変化する市場環境に柔軟に対応し、持続的な成長を実現するための戦略について、代表取締役会長の菊地唯夫氏にご講演いただいた。


ロイヤルホールディングスが2010年に策定した「ロイヤルグループ経営ビジョン2020」。現在は、「経営ビジョン2035」、および「中期経営計画2025~2027」を策定、推進している
出所:ロイヤルホールディングス提供資料

 


 

長期ビジョンの策定

 

ロイヤルホールディングスが長期ビジョンを策定した背景には、当時の同社の業績循環周期が3年ごとに変化しており、3年スパンの中期経営計画の策定では成長を正しく方向付けすることができないことが理由として挙げられる。

 

とくに、外食事業における既存店の売上減少や収益性の低下が続く中、持続的成長を目指すためには、10年後の明確な目標を設定し、そこから逆算して戦略を立てる必要があった。長期ビジョンは、経営者や社員が共通の目標に向かって努力するための指針となり、組織全体の士気を高める効果がある。具体的には、既存事業の整理と磨きこみや新規事業の開発を通じて安定した収益基盤を築いている。これは過去の新規出店への投資中心の戦略から既存事業への投資へと切り替える起点にもなっている。


長期ビジョンでは、短期的な利益追求から脱却し、事業ごとにミッションと戦略を明確に描くことで、全体の方向性を示している
出所:ロイヤルホールディングス提供資料

既存事業の再構築

 

新規事業の開発に注力する前に、既存事業の見直しと改善が重要である。ロイヤルグループは、既存ブランドへの投資や、商品・サービスを強化して、安定した収益基盤を築いてきた。

 

具体的には、ブランドの再構築や商品・サービスの質の向上に取り組むことで、顧客満足度を高め、リピーターを増やすことに成功している。また、外食産業の健全な発展は、事業者が付加価値を訴求し、その付加価値を顧客から適正に評価され、適正な対価を得る好循環にある。

 

このような取り組みは、企業の競争力を高めるだけでなく、持続的な成長を実現するための基盤を形成する。既存事業の価値向上は、新規事業の成功にも寄与するため、企業全体の成長戦略において欠かせない要素である。


外食産業の健全な発展には、付加価値を訴求し、適正な対価を得るモデルの構築が不可欠である。同社は、顧客満足を高める努力を継続し、価値に見合った価格設定を通じて持続可能な成長を目指している
出所:ロイヤルホールディングス提供資料

 

テクノロジーの活用

 

人手不足やコスト上昇に対応するため、テクノロジーを活用して業務の効率化を図ることは現代の企業にとって重要な課題である。ロイヤルグループでは、事業の特性に応じて業務の自動化やデジタル化を進めることで、商品・サービスの質を高めながら効率性の向上を追求している。これにより、顧客満足度と従業員満足度の両立を目指している。

 

テクノロジーが進化し続ける中でも、人にしかできない仕事の価値は依然として重要だ。労働には、肉体労働、頭脳労働、感情労働の3形態があり、中でも感情労働とは、顧客の満足を得るために自分の感情をコントロールし、常に模範的な対応を維持する労働を指す。今後、肉体労働はロボットが、頭脳労働はAIが代替していくことが予想される。人が価値創造に集中できる環境を整え、テクノロジーと人の共存の道を模索することが重要である。このように人間的な価値を重視することで、企業は顧客との深い信頼関係を築くことが可能となる。


「ヒト with テクノロジー」──。これまでの人とテクノロジーの関係は代替性であった。しかし現在は、テクノロジーは人の仕事を補完し、能力を拡張する存在へと変わりつつある
出所:ロイヤルホールディングス提供資料

PROFILE
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菊地 唯夫 氏
ロイヤルホールディングス株式会社
代表取締役会長