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研究リポート
ビジネスモデルイノベーション研究会
秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2025.07.28

価値追及と時代の風をよむ生存戦略 キラックスグループ・ホールディングス

【第1回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマにさまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第12期のテーマを「The Intersection of Business Sense ~ビジネスモデル イノベーションを実現するための感性を磨く交差点~」と題して、ゲスト企業を視察した。
研究会参加者は、地域に根差す実力派企業であるキラックスグループ・ホールディングスから「生存戦略モデル」や「時代に合わせた価値の追求」、「”ご縁”による多角化経営」について学んだ。

開催日時:2025年6月17日(愛知開催)

 

はじめに

 

株式会社キラックスグループ・ホールディングスは、現在8社のグループを経営している。祖業である「人造竹皮」製造・販売により地盤を築き成長。創業1961年、従業員数190名、売上高130億円の包装資材メーカー兼商社である。

 

商社としての販売力とメーカーとしての技術力を併せ持ち、グループ一丸となって顧客の課題に寄り添うパートナー企業を目指す。「ピンチはチャンス」をキーワードに、時代や顧客の変化に対応した柔軟な発想を常に持ち、業界で勝ち残るための市場拡大を図るべく日々邁進している。今回は時代の変化を「風」と捉え、長きに渡り多角化経営を進めている同社代表取締役の吉良氏に、これまで、そして今後の取り組みについてお話しいただいた。

 


顧客・社員に好印象を与えるオフィスエントランス

 


 

時代に応じた事業拡大を見据えた成長戦略

 

同社は1961年人造竹皮の機械化に成功し、製造メーカーとして事業を開始。1970~80年代のレジスター普及、対面販売減少に伴い、メーカー業態のみでは時代に追いつけないと判断し、トレーやフィルムなどの包装資材を仕入れて販売する商社機能を保有することで事業を拡大した。食品分野に特化するのではなく、自動車産業・物流産業・ガラス加工など、今後伸びしろのある業界かつ同社の強みを生かせる他事業への進出を積極的に推進。事業拡大に伴い、名古屋のみならず、東京・静岡・大阪・福岡に営業所や出張所を構え、企業規模を拡大させた。

 

ポイントは取り扱う商品が増加すれば他領域で生かすことができるか、そして市場性があるかを捉え、加えてエリア戦略も並行して考える「需要の先読み」が重要であると吉良氏は語る。

 


メーカー/商社として30万点以上の製品を取り扱っている
祖業である人造竹皮(左)、包装資材や保冷バッグ(右)

 

M&Aによる”ご縁”戦略

 

グループ経営のはじまりは”ご縁”だったと吉良氏は語る。M&Aを活用した事業領域の拡大は、当時取引先であった曲げガラス製造メーカーが倒産した際に、事業承継を進めたことがきっかけだった。グループジョインした7社の内、6社は取引先である売り手から吉良氏に直接相談があったことからグループ参画に至っている。相談の多くは「後継者問題」だった。倒産を検討せざるを得ない取引先が多く存在していた。課題の明確化と同社の強みを掛け合わせた結果、事業承継のみならず企業参画を推し進めることができたのである。M&A戦略では、買い手側が戦略的に売り手を探し、マッチングを図ることが一般的であるのに対し、同社は売り手の相談からマッチングを展開しており、効率的かつ平和的なM&Aがベースとなっている。”ご縁”という表現だけでは言い表し難い、相手から相談をしてもらえる関係性構築には吉良氏の人望や人柄が功を奏した独創的な戦略展開であると言える。


“ご縁”を中心にしたM&Aによるグループ経営(同社講義資料より抜粋)

 

ブランディング戦略

 

設立50周年を機に社名を改め、次の50年に向かって顧客満足を軸にした価値提供を追求することを決めた同社。社員の能力を引き出す働きやすい環境づくりに注力しているという。ブランディングとして「社風づくり」をテーマに環境整備や規定・制度の改定を推し進めている。2019年にプロジェクトを立ち上げ、カフェスペース、ロビーの改修、新社屋プロデュース、フリーアドレス制の導入などによって部署間連携の強化を実現。社員の働き方が改善され、その結果、顧客に対して品質の良い価値を提供することができるようになった。

 

「ブランディングは、外部からの見た目と社員が感じていることを高いレベルで合わせること」であると吉良氏は語る。

 

100年企業を目指す上で、低粗利であったり、人件費や物流費の割合が高すぎる事業や、取引から撤退し、「やめること」を決める時期を見極めることが必要であると語る吉良氏。今後は「誰と共創するか」を判断・決断し、生存戦略を打ち立てていくという。

 


顧客や社員が利用できるカフェスペース


働きやすさを意識したオフィス空間(左)、顧客を迎え入れる快適なロビー(右)

PROFILE
著者画像
吉良 伸一 氏 
株式会社キラックスグループ・ホールディングス
代表取締役