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研究リポート
ビジネスモデルイノベーション研究会
秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2025.07.16

“見えないものを建てていく”アネシスが進める戦略ストーリー

【第1回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマにさまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第12期のテーマを「The Intersection of Business Sense ~ビジネスモデル イノベーションを実現するための感性を磨く交差点~」とし、ゲスト企業の視察を実施した。
研究会参加者は、アネシスおよびくまさんメディクスの講話・現場視察を通じ、
各社の取り組みがもたらす「多角化とグループシナジー」や「開発機能強化、一貫生産体制」といった特長を認識するとともに、地域未来創造型の善循環経営から成る「バリューチェーン価値最大化モデル」について学んだ。

開催日時:2025年3月4日(東京開催)

 

はじめに

 

アネシス株式会社(アネシスグループ)は1994年に設立。九州を拠点に住宅総合企業として成長を遂げてきた。設立当初は分譲住宅の販売からスタートし、現在では新築注文住宅、中古住宅のリノベーション、不動産事業など、住まいに関するサービスを幅広く提供。自然素材を生かしたデザイン住宅や営業不在で設計士に直接相談して建てる住宅など、5つの特徴的なブランドを展開し、それぞれの専門家が高品質な提案を行っている。

 

顧客の「こんな暮らしがしたかった」を実現するために、地域密着型でサービスを展開するとともに、昨今では地元・熊本における半導体企業の進出を受け、台湾に法人を設立した。今回は「住環境の新しいスタンダードをつくる」ことを掲げる同社の取り組みを、現地視察および講演から学んだ。

 


アネシス事業内容(出所:講師レジュメから抜粋)

 


 

アネシスグループの概要

 

アネシスグループは「暮らしに関わることぜんぶ」を事業領域と捉え、幅広く顧客への包括的なサポートを打ち出している 。具体的には、新築住宅、リフォーム、リノベーション、宅地分譲、不動産仲介、建売住宅、中古マンション、店舗、介護住宅、クリニック、倉庫、庭、小屋、施設建設、相続相談、生活雑貨など、多岐にわたる。

 

登壇いただいた薮内 真由美氏は、常務取締役として同社の経営に参画しており、自身に影響を与えたバックグラウンドとして、経営者であった父の存在を語る。薮内氏は学生時代、経営者として働く父の姿を目の当たりにし、会社に対する父のビジョン、思いを聞いて育った。次第に企業経営に対する関心が高まり「せっかく仕事をするならば経営に携わりたい」という思いを持つに至ったという。そのような中でアネシスという会社を選んだのは「社員に任せ、好きに仕事をさせる」という社長および会社の方針に魅力を感じたからであり、これは今なお変わらないという。アネシスの成長と多角的経営について、ひも解いていきたい。

 


アネシスの会社概要(出所:講師レジュメから抜粋)

 

多角化、事業の進化を支えるもの

 

注文住宅事業では、設計士とつくるデザインハウス、自然素材を生かした本格住宅、コストパフォーマンスに優れた企画住宅など、多様なニーズに対応する商品を展開 。また、リフォーム・リノベーション事業では、トイレやキッチンなど水回りの交換から、間取りの変更など大規模リノベーションまで、一気通貫でサービスを提供するほか、中古住宅のサポートにも力を入れている 。さらに、不動産開発・売買仲介事業では、土地造成を通じて新たな価値を創造し、地域貢献に努めている。近年では台湾での法人設立や、地元経済団体、不動産上場企業、ハウスメーカーなどへのコンサルティング事業を手掛けるなど、事業領域は拡大の一途をたどる。

 

事業の多角化を支えるベースには、経営理念「人財を育成し幸せを形にする」がある。また、向こう10年のビジョンとして「住環境の新しいスタンダードをつくる」を掲げ、流行に迎合しない、人と住まいの幸せに向けた自分たちのやりたいこと(=提供価値)や、次代のスタンダードになるような普遍性をを追求する。

 


自然素材で安心して住み続けられる家をお客さまとともにつくる住宅事業ブランド「HOME PARTY」(出所:講師レジュメから抜粋)

 

アネシスグループ今後の展望

 

人口減少に伴い、新設着工棟数は減少。住宅市場が衰退期市場であることは明白だ。この環境認識のもと、同社は既存事業の“シンカ”と事業領域の拡張、事業ポートフォリオの変革(請負、ストック、開発事業の強化)を戦略として掲げる。具体的には、請負事業における大規模木造建築事業をブランド化し、新築戸建て住宅事業に代わる事業の柱として注力している。これは「お客さまにとことん寄り添う、家づくりを楽しんでもらう」という自社のバックボーンをBtoBビジネスに応用している。また、多角化事例としては先述した台湾への事業展開があるが、これは熊本における大トピックとしても語られる台湾企業TSMCの進出が影響している。

 

これらの事業を成立させるためには人財への投資が不可欠である。アネシスは、採用ブランディング、価値観マッチング、海外採用などで多様な人材を獲得しながら、ミッショングレード制やキャリアマップ、研修制度/社内アカデミーなどの人材育成制度を整備 。さらにビジネスコンテストや設計コンテストなどを開催し、社員の能力開発を積極的に支援している。変化の激しい現代においても持続的な成長と社会への貢献を目指すという。


社員の提案からスタートした事業例(出所:講師レジュメから抜粋)