【第5回の趣旨】
住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会では、全国で成長している「住まいと暮らしドメイン」の優良企業を視察訪問している。
第11期のテーマを「事業領域拡大×事業サービス化の視点で挑むハイブリッド経営」とし、第5回では、東急コミュニティー、リコージャパン、Mytepro Technology Japanをゲストに招き、事業戦略についてご講演いただいた。
研究会参加者は1日目、東京都目黒区にある「東急コミュニティー技術研修センターNOTIA(ノティア)」(以降、「NOTIA」)にて、災害対応のボトルネックを産学官連携により解消し、自社の事業領域を広げた取り組みの講演や、在宅避難を目的とした住宅のインフラ設備などの視察で学びを深めた。
開催日時:2025年5月29日(東京開催)
はじめに
東急コミュニティーは総合不動産管理会社として、マンション管理戸数約80万戸、ビル・施設管理件数約1600件(2025 年3 月31 日時点)と業界トップクラスの実績を誇る。
同社は、社会課題を解決する「ソーシャルカンパニー」として、コーポレートメッセージに「コミュニティーの枠を超えて、もっとソーシャルに。」を掲げ、総合不動産管理会社として培った確かなオペレーションと高度なマネジメントを活用し、豊かな未来を創造している。
同社は、建物の維持保全に関するサービスをワンストップで提供しており、災害が増加している昨今、管理する建物が被災した際に少しでも早く“あたりまえの毎日” を取り戻すため、さまざまな取り組みを行っている。同社の活動は、社会全体の安心・安全を支える重要な役割を果たしているのだ。
「東急コミュニティー技術研修センターNOTIA(ノティア)」
出所:東急コミュニティー提供
産学官連携による災害時のボトルネックを解消する仕組み
一定規模以上の地震などの災害が発生した際、東急コミュニティーでは技術員が建物の緊急点検を実施している。2024年の能登地震でも、全国から技術員が現地入りし、緊急復旧や被災状況の確認、報告などを迅速に行った。
災害時にはさまざまな調査が必要となり、民間資格保有者が対応できる調査も多いが、被災者が生活再建支援を受けるために必要な罹災証明書交付に関する調査は、従来、自治体職員しか実施できなかった。
しかし、自治体職員は避難所運営や物資支援などの対応を優先せざるを得ないため、罹災証明書交付に必要な調査が遅れることが課題となっていた。この問題を解決するため、同社は大学や自治体と共同研究を開始し、民間企業が調査を支援できる仕組みを提案。自治体から内閣府へ提言を行った結果、民間企業が罹災証明書交付に必要な調査に関与できることが明確化された。
この取り組みにより、社会全体で災害時の調査を迅速化し、建物の復旧工事を早める仕組みを実現した。
災害時における民間企業の関与についての説明をする様子
技術研修センターNOTIAによる実践的な人材育成と環境技術の融合
「NOTIA」は、建物そのものが「気づきの場(Notice Area)」となるよう、研修機能と環境性能を融合させた施設である。
「NOTIA」は先進的な環境技術を導入しており、東京都内の事務所ビルとしては初めて「Nearly ZEB ※」の認証を取得している。この施設では、建物そのものを研修素材として活用し、技術員を中心に実践的な技術力と提案力を育成している。
「NOTIA」では、研修を通じてさまざまな気づきが得られるよう設計されており、技術者が現場で即戦力となるためのスキルを磨く場として機能している。また、建物調査に特化したドローン操縦技能教育を行う「TCBIドローンスクール」も開校しており、ドローン操縦士回転翼3級の資格取得が可能である。
※以下の①②の全てに適応した建築物
①基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減(再生可能エネルギーを除く)
②基準一次エネルギー消費量から75%以上100%未満の削減(再生可能エネルギーを含む)
ドローン操縦を体験する研究会参加者
バリューポイントとキャッシュポイントの設計
東急コミュニティーは、災害時に居住者が在宅避難できる環境を整えるため、水と電力の確保という観点から、改修工事で後付け可能な貯水システムや太陽光発電をメーカーと共同開発している。この取り組みは、災害時の被害軽減に向けた改修工事の提案と普及を目的としており、居住者の安心・安全を支える重要な施策となっている。
建物調査や改修工事は、同社が平時から提供しているサービスであるが、災害時における建物調査の迅速化や被害軽減という社会的価値を「バリューポイント」として位置付け、事業領域を拡大している。
一方で、会社が事業を継続するために必要不可欠な「キャッシュポイント」を、本業である建物調査や改修工事に設定することで、収益性を確保しつつ社会的課題の解決に取り組んでいる。
このように、自社の強み(建物管理技術)と社会的価値(災害時の被害軽減)、顧客価値(居住者の安心・安全)を掛け合わせることで、貢献価値を生み出している。
在宅避難に必要な貯水システムの説明を受ける研究会参加者
