【第5回1日目の趣旨】
デザイン経営モデル研究会では、さまざまな企業・団体の現場を「体験」する機会を提供することで、研究会のテーマである「体験価値」と「自社らしさ」を創る1つの資源であるデザインの力をもって、差別化と高収益を実現するためのヒントを提供している。
第5回1日目はプロバスケットリーグに所属する株式会社レバンガ北海道の代表取締役である横田 陽氏に講演いただいた。同社の企業理念は「北海道から『人』に『社会』に感動を届け、世の中を笑顔にする」であり、北海道という地域だけでなく、道民や北海道を支える企業に、明日の活力を届けたいという思いを込めたものである。企業理念実現のためにファンだけでなく、スポンサー企業や地域・行政と作る新たな共創価値について学んだ。
開催日時:2025年5月22日(北海道開催)
はじめに
株式会社レバンガ北海道はプロバスケットボールの「レバンガ北海道」を運営している。「レバンガ北海道」は2011年に北海道で生まれ、現在は日本のプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」に所属している。企業理念に「北海道から人や社会に感動を届け、世の中を笑顔にする」を掲げ、スポーツ振興だけでなく、地域の経済観光や医療、健康、教育といったさまざまな分野と連携して北海道を盛り上げるべく活動している。
こうした活動の結果、24年度の売上高は14億円を超え、8期連続黒字化を達成。入場者数に関しては、昨年対比150%を超え、動員数は平均4617名、2026年にスタートする新リーグ構想「B.PREMIER」の参入基準も満たし、更なる飛躍が期待される
レバンガ北海道のロゴマーク。チーム名は「がんばれ」の逆さ言葉。
道民から「がんばれ」と応援してもらえるチームであり続けるという誓いが込められている
「試合結果としての勝利」以外の価値をデザイン
データ分析に基づいた選手起用や、「当面の勝利」のために高額で海外選手を獲得するなど、勝利のためのチーム運営は重要だ。選手は勝つために日々練習をし、勝利する事でファンは喜びグッズやチケットが売れる。しかし、レバンガは勝つ事だけをチームの価値と捉えていない。
横田氏はスポーツチームの経済活動を1次産業のように「育てて成果を出す」という観点で捉えている。1次産業は作物を育てる苦労がつきもので、加えて収穫物を消費者に確実に届けなければならない。また、消費者・市場の信頼を得るための工夫や、気象や災害のリスク許容度も持ち合わせないといけない。プロスポーツチームも、強い選手を育てる仕組みや環境を整え、試合を魅力的に届ける工夫や、サポーターやスポンサーをどのように増やしていくのかが非常に重要だ。
不確実性が前提であるからこそ、価値をつくる力や、結果よりプロセスを魅力的に伝える力が必要だ。まさに『勝利に頼らずに満足をつくる』という考え方である。
「スポーツの試合を提供することが目的ではなく、スポーツは社会問題を解決することに貢献しなければならない」という価値観をベースとしたビジネスモデル
試合の前後のプロセス全てをコンテンツ化しファン化を促進
先述の通り、レバンガは”勝利以外の価値”をファンに提供している。例えば、選手入場の際に使用する煙幕に、当時のスポンサー企業である芳香剤原料メーカーの芳香剤を混ぜるという演出をしたり、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールドでのバスケ試合の開催が話題を集めた。野球場でのBリーグ公式戦開催は史上初の試みであり、試合の模様はテレビや新聞、インターネットなどで幅広く報道され、SNSでも「レバンガ北海道」「エスコンフィールド北海道」などのキーワードがトレンド入りするほど大きな反響を呼んだ。結果的に1万9462名の観客が集まり、Bリーグにおける歴代最多来場者数の新記録となった。チームの成績とは別の観点でファンを楽しませることを追求し、勝つことだけがクラブの価値ではない事を実証した結果である。
試合の様子
(出所:レバンガ北海道ホームページ)
公式youtubeでの動画
(出所:レバンガ北海道公式Youtubeチャンネル)
地域共創の本質である3方良しを実現し、地域から愛されるスポーツチームへ
同社はレバンガ北海道SDGsプロジェクト『LEVANGA ACTION』の一環としてスポーツを通じた地域社会にも貢献している。例えば、子どもたちの運動能力向上やスポーツの知識向上のため、備品購入の予算が限られている小学校や中学校へ、バスケットボールやバスケットゴールを寄付したことが挙げられる。地元のスポンサー企業に協力を仰ぎ、企業のロゴ入りバスケットボールを寄付する事で企業のイメージアップにもつなげている。
スポーツチームが社会課題や地域課題の解決に向けて活動する事で、地域が経済的な支援を受け、スポンサー企業は行政との関係を深めることができる。このように、ソーシャルパートナーシップを結ぶためのハブ機能としての役割を同社が担い、地域創生の本質である三方良しを実現を目指している。このような地域共創モデルを構築する事はスポーツチームの新たな存在意義として捉える事ができるだろう。
バスケットボール寄贈の様子
(出所:レバンガ北海道ホームページ)
