【第5回の趣旨】
DX戦略推進研究会では、データの活用による付加価値向上と人材育成の推進、そのための骨太のDX戦略をテーマとして、DX推進のヒントをご提供。生成AIなどの先進的なDX推進活動で顧客とのコミュニケーションモデルの創造や、革新的な業務改善を実現している企業をご紹介する。
第5回は「デジタル人材育成の要諦」をテーマに、マインドセットからリテラシー向上までの計画的な教育の必要性と、 「データを使いこなす人材育成」のポイントについて学んだ。
開催日時:2025年5月23日(福岡開催)
はじめに
乗富鉄工所は、福岡県柳川市に本社を構える、創業77年の老舗の水門メーカーである。水門の設計・製造・保守を主力事業とし、防災インフラの要として地域に貢献している。企業のバリューは「やりたいを叶える」であり、近年ではデザイン性と機能性を兼ね備えた家具やアウトドア製品の開発に注力。伝統技術と現代的な創造性を融合させたものづくりを展開している。一生ものの技術を持つ職人と、人間の感性にフォーカスを置いたデザインを掛け合わせ、職人の価値を高めるための経営を行っている。この「職人×デザイン」の取り組みとして、職人の技術力の高さを生かして新たなプロダクトを生み出す「ノリノリプロジェクト」など、新たな事業にも積極的に挑戦している。
デザイン性と技術を重視したものづくり
かつては地元の業者の困りごとを聞き製品を開発していたが、売り上げは芳しくなかった。そこで、「デザイン性」に重点を置き、これまで自分たちだけでつくってきたものを第三者と「コラボレーションしてつくる」開発スタイルに変えたところ、成果につながった。
また、プロのデザイナーにデザインを依頼した案件が海外のデザイン賞を受賞するなど、同社の取り組みは注目を博している。インスタグラムでの情報発信でも、「職人×デザイン」に「マーケティングを学ぶ大学生のアイデア」を掛け合わせ、コラボレーション力を生かしているという。
開発する製品は水門に縛られない。「ノリノリプロジェクト」で新たなものづくりがまちづくりへと波及し、フリー焚火イベント「TOMARIGI」やツクルフェスの開催につながった。
「ノリノリプロジェクト」のブランド「ノリノリライフ」によって開発されたキャンプグッズ。デザイン性の高さが評価され、グッドデザイン賞を受賞した
自由にものづくりができる「組織」づくり
「働く環境のデザイン」や「組織」について、トップが生産性の高い環境をつくったり、トップダウンで意思決定を行う縦割型組織から、新たな取り組みに合わせて「ワクワクしながら働く環境を自分でつくる」「ボトムアップの自律分散型組織」へと変革を遂げた。
採用については「ものづくりが好き」な職人を雇用するため、「わくわくしながらクリエイティブなことをしたい」人材を募集している。こうして採用された社員が自由な発想で業務効率化や基幹システムのクラウド化を進め、全ての情報を社内で共有できる体制が整ったという。
自由に購入、閲覧ができる書庫。
書籍は「kintone」で管理している
川(自然)と人間の関係性の向上
日本全国にある河川管理施設のうち、約6割が1985年以前に造られており、老朽化が進んでいる。加えて、その管理者の高齢化も深刻である。そこで「自然を人間が使いやすいように改変するもの」であった水門を「川と人のかかわりしろ」ととらえ直した。
例えば、水門を誰でもメンテナンスしやすくするためにユーザビリティーを向上させたり、スマートフォンやパソコンを活用して水門の操作を自動化・遠隔化している。また、水門の機能を生かした掘割水質浄化や生態系に配慮した水門運用研究にも取り組んでいる。
これらによって、同社は利益を追求する共同体ではなく「社会に影響を与え続ける装置」として生まれ変わることができ、若手社員の増加や業績好転につながっている。
オープンファクトリーのために製作した水門体験施設
