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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2025.06.23

休耕地を再生し、高付加価値生産と大量生産の2軸で取り組む持続的農業モデルとは アグリーンハート

【第5回の趣旨】
アグリサポート研究会では、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトとして掲げている。第5回は、青森県でアグリ業界の先進的取り組みをする2社を視察。
1社目は、休耕田を再生し、顧客ニーズや社会的課題に対応する形で、高付加価値生産と大量生産の2軸で取り組んでいるアグリーンハート。同社は、「オーガニックエコフェスタ2023玄米部門」最優秀賞や、農林水産省主催「未来につながる持続可能な農業推進コンクール」の「有機農業・環境保全型農業部門」生産局長賞など数々の受賞歴を誇る。
2社目は、日本一おいしいりんご作りに挑戦し、葉を取らず自然本来の姿を取り戻すことで誕生した「葉とらずりんご」の先駆者であるゴールド農園。同社からは、葉とらずりんご誕生の背景や、2024年に新設された「新りんご選果場」における選果作業でのAI活用事例、今後の成長戦略の方向性についてご講演いただいた。
開催日時:2025年5月30日(青森開催)

 

 

はじめに

 

青森県黒石市の米農家に生まれた代表取締役の佐藤氏は、実家を継いだ後、祖父の残した負債を抱えながら事業を軌道に乗せていった。しかし、過重労働がたたり脳梗塞で倒れてしまう。この出来事をきっかけに法人化を決意し、2017年に家業から水稲部門を独立させ、アグリーンハートを設立した。

佐藤氏は、米農家を取り巻く環境や状況の変化に揺るがない持続可能な農業モデルの構築を目指している。深刻な担い手不足や、病気で障がいを抱え仕事を失った親族が苦悩していたことなど、社会的課題に直面するたびに、佐藤氏はピンチをチャンスに変え、独自のモデルを構築してきた。特に、高付加価値生産においては、有機農業と農福連携をワンセットと考え、「ノウフクJAS(農福連携の認証)」や「有機JAS(有機農業の認証)」を取得。これにより、障がい者の活躍の場を提供する独自の有機農業モデルを確立している。


低コストをコンセプトに作成した自作の水位センサー。最先端技術を積極的に導入し、省力化、生産性向上に努めている


ドローン直播。自動飛行・打ち込み式の画期的な湛水直播を実現


 

社会の課題解決から生まれた有機農業

 

アグリーンハートは、中山間地での高付加価値生産と平地での低コスト大量生産の2軸の生産体制を採用し、幅広いニーズに対応した生産を行っている。特に、中山間地での有機栽培においては、「高付加価値の商品で採算を取る」という考えに基づき、大型機械が入れない農場での除草作業などに障がい者を積極的に採用し、活躍の場を提供している。


障がい者が生産工程に携わった食品の日本農林規格「ノウフクJAS認証」を取得。そのほか、「GLOBALG.A.P.」や「有機JAS」も取得している。3つ同時に所有している企業はアグリーンハートだけである
出所:アグリーンハートホームページ

 

アグリーンハートの持続的農業を支える農法・技術

 

アグリーンハートの高付加価値生産と低コスト大量生産は、それぞれ特徴的な技術や農法によって支えられている。

高付加価値生産では、生態系調和型農業理論である「BLOF理論」を実践しており、2023年には日本有機農業普及協会主催の「栄養価コンテスト・玄米部門」で最優秀賞を受賞し、その理論の有効性を実証した。

低コスト大量生産では、V溝乾田直播、初冬直播、湛水直播、ドローン直播の4種類の直播技術を中心に採用している。これにより、人員削減やコストカット、さらには遠隔地農業の実現を可能にしている。これらの技術や農法を駆使して構築されたロジックは、アグリーンハートの農業における大きな差別化要因となっている。


研究会視察のタイミングで抑草ロボット(アイガモロボ)が納品


大豆と水稲の輪作による有機栽培を視察。写真は、大豆畑にて専務取締役の今様から栽培方法や取り組みについて解説いただいている様子

 

持続的農業を実現する法人化と「共感資本主義」

 

過重労働がたたり、32歳の時に脳梗塞で倒れた佐藤氏は、「自分が欠けたら終わりだ」と痛感し、環境や状況の変化に揺るがない持続可能な農業を目指して法人化を決意した。法人化によって、人材教育、スマート技術の導入、認証取得などの優位性を最大限に生かし、持続的経営を盤石なものにするための努力を続けている。

また、佐藤氏は「BtoF(Business to Fan)」と「共感資本主義」を掲げ、アグリーンハートの理念や取り組みに共感し、同じ未来(在るべき姿)を描ける社員、取引先、会員といったステークホルダーがどの程度占めるかを重視している。共感でつながる者同士による独自の経済軸を基盤とし、より強固で持続可能な農業経営モデルを創造し続けている。


「共感資本主義」を掲げ、アグリーンハートの理念や取り組みに共感できる社員がどれだけいるかを大切にしている。常に「自分ごと化」して考られる集団を目指している
出所:アグリーンハートホームページ

PROFILE
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佐藤 拓郎 氏
株式会社アグリーンハート 代表取締役