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研究リポート
ビジネスモデルイノベーション研究会
秀逸なビジネスモデルを持つさまざまな企業の現場を「体感」する機会を提供しております。ノーボーダー時代に持続的成長を実現するためのヒントを学びます。
研究リポート 2025.06.19

株式会社くまさんメディクスの経営の考え方 くまさんメディクス

【第2回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマにさまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第12期のテーマを「The Intersection of Business Sense ~ビジネスモデル イノベーションを実現するための感性を磨く交差点~」とし、ゲスト企業を視察した。
参加者は、アネシスおよびくまさんメディクスの講話・現場視察を通じ、各社の取り組みがもたらす「多角化とグループシナジー」や「開発機能強化、一貫生産体制」といった特長を認識するとともに、地域未来創造型の善循環経営から成る「バリューチェーン価値最大化モデル」について学んだ。
開催日時:2025年4月23日(熊本開催)

 

 

株式会社くまさんメディクス
代表取締役社長 白瀬 嗣久 氏(左)
MPSD事業部 次長 松岡 宏明 氏(右)

 

 

はじめに

 

株式会社くまさんメディクスは、熊本酸素(現在は商社をメインに展開)を母体とし、6社で構成する 「くまさんグループ」 の4番目に設立した創業107年の企業である。自社製品(スクライブ装置、ブレイク装置)を製造する一方、大手メーカーの製作要求に合わせた半導体製造装置の受託製造もしている。さまざまな条件を考慮して工場を建設し、アメーバ経営により全員参加型の経営体制を取り、リソースの最適化を図っている。


 

九州の半導体産業について

 

現在、日本政府は半導体産業の復活を国家的課題として位置づけ、生産基盤の整備、先端技術の研究開発、そして企業への支援に積極的に取り組んでいる。特に、かつて「シリコンアイランド九州」と呼ばれた九州地域への再投資が進められており、熊本を中心に国内外の半導体関連企業の誘致が加速している。代表例として、TSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出が挙げられ、日本企業との合弁で工場の建設が進められているほか、今後さらに複数の工場建設計画も報じられている。こうした動きの背景には半導体を経済安全保障上の重要物資に指定する日本政府の支援や、AI向けの半導体デバイスおよび半導体材料・半導体製造装置の需要増がある。高性能演算処理が求められるAI用途では、先端プロセス技術を有する半導体の供給能力が不可欠であり、国内での安定供給体制構築が求められる。かつて日本の半導体産業の衰退は、企業が適切な投資を怠ったことも一因であると指摘されており、今後の成長においては、人的・物的資源への継続的な投資が不可欠である。九州における半導体産業の再興は、需要に合わせた国をあげての支援と各企業の取り組みによるものであり、今後発展が期待できる。


(出所:経済産業省「生産動態統計」より)

 

製造への特化とやり抜く覚悟

 

同社は、重厚長大型産業から軽薄短小型産業へと構造転換が進む中、当時主力だったガス事業からの脱却を決意し、半導体製造装置の将来性に着目した。転機は東京エレクトロンとの出会いであり、同社が「営業と開発は自社、製造は協力企業」とする方針を発表していることを確認し、自ら製造部門に特化する道を選んだ。製造とはいえ簡単な業務ではなく顧客ごとに仕様が異なり、対応には高い柔軟性と技術が求められる。同社は製造に特化することで高い技術力と生産力をもち、顧客の期待に応えることで信頼と実績を築いてきた。また、顧客からのコスト削減要請にも応じ、生産改革を実現したことで、長期的なパートナーシップを確立している。製造という領域に絞り、責任を持ってやり抜く覚悟が、同社の競争力と成長の礎となっている。


くまさんメディクスの工場(写真はくまさんメディクス川辺第1工場)

 

顧客第一主義を貫く姿勢が信頼と持続的成長を築いた

 

半導体業界は市況の波が激しく、特に繁忙期と閑散期の差が大きい。こうした中でも、同社は「顧客第一主義」という信念のもと顧客からの依頼は断らず、どれだけ厳しい状況でも納期厳守を徹底してきた。他社が敬遠する案件にも積極的に対応し、信頼と実績を積み重ね、競争の激しい市場において独自の地位を確立している。利益、従業員満足、顧客満足の3要素をバランスし、これらがコンフリクトする時は顧客満足を最優先するよう社内周知してきた結果といえる。市況の波に対しては、工場間での繫閑の差が大きいにもかかわらず、稼働率を落とさないことが求められるため、柔軟な人材配置が可能な体制を整備することで、効率と品質の両立を追求している。過去、リーマン・ショックや熊本地震といった苦難も経験したが、「与えよ! さらば与えられん!」の言葉を実践してきたことで各方面から支援を得ることができ乗り越えられた。全てにおいて、顧客満足を最優先にするという強い意志こそが、くまさんメディクスの信頼と継続的発展を支えている。


(出所:くまさんメディクスホームページより)