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研究リポート
住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会
人口減・高齢化・住宅への価値観の変化など「住まいと暮らし」領域を取り巻く環境は著しく変化しています。強みを明確にし勝ち続けるためのヒントを事例企業より学んで頂きます。
研究リポート 2025.06.11

創業111年の住宅会社が行う地域密着多角化(ワンストップ)モデル 波多野工務店

【第4回の趣旨】
日本国内において、人口減少、新築着工棟数の減少など、住宅・リフォーム・建設・不動産をはじめとする「住まいと暮らし業界」にとって厳しい未来が予測される。
だが、当業界は人間の生き方に関わる領域であり、なくなることはない。当研究会では、自社の魅力を最大化し、本質的な価値を提供することで「顧客に選ばれる企業」であり続けるためのヒントを学ぶ。
第4回は「地域密着」をテーマに、愛知県江南市にある創業111年の波多野工務店様を視察。モデルハウスや単独展示場、グリーンショップにDIY工房の見学と講演でその個性化を学んだ。

開催日時:2024年3月18~19日(名古屋開催)

 

はじめに

 

1913年創業の波多野工務店は、愛知県江南市を中心に延べ1200棟の家づくりを手掛けてきた。住宅以外にも、公共建築やクリニック、店舗、映画セットなども手掛けている。

 

同社の特徴の1つに、「経営変化のスピード」が挙げられる。同社のウェブサイトには、「常に新しい技術やセンスを取り入れ、進化してきた結果が今の歴史ある会社となれた理由の1つである」という記載がある。本研究会の会員としても長く参加しており、研究会での学びをすぐさま自社に持ち帰り、取り入れているのだ。時代の変化を敏感に捉え、「自社にとっての個性化は何か」を常に考えている。

 

今回は、代表取締役の波多野智章氏より、会社の歴史から地域密着多角化(ワンストップ)モデルの戦略についてご講演いただいた。


波多野工務店の事業内容


 

地域密着多角化(ワンストップ)モデル

 

同社は、総合建設業として木造の注文住宅を中心とした住宅事業を主事業としている。木造だけではなく、事務所や工場、店舗などの一般建築を扱う建築事業も手掛けている。さらに、中古住宅販売、マンションリノベーション、買取再販も行っており、新築だけでない幅広い顧客ニーズに対応できる事業体制を整えている。

 

住宅・建築事業に隣接する事業として、介護施設紹介事業を行っている。自社で介護施設を建設することはもちろん、尾張エリアに特化して介護施設を紹介し、相談から入居まで一貫サポートを行っている。

 

また、地域住民との接点増加を目的に、ガーデニング専門店やグリーンショップ(植物販売)、DIY工房、キッズマネースクールなども展開。多面的なタッチポイントを作っている。


ハイグレードのモデルハウスを兼ねた「グラデニングスタジオ」。グリーンショップやDIY工房が併設されておりイベントなども開催する

 

多層化×多角化

 

波多野工務店の事業多角化は、単なる事業の複数展開にとどまらない。下図は同社の事業展開を整理したモデル図である。各事業において価格の層を設けており、多層化を行っている。価格帯が変われば客層は変わる。顧客との接点を増やすために、事業の幅だけでなく深さである層を増やす多層化を行っている。

 

マーケティングにおいては、顧客のセグメンテーション(細分化・区分け)が重要であり、顧客ニーズをより明確にすることができる。その顧客ニーズに合わせて、接点を増やすべく多層化×多角化で事業を展開している。


波多野工務店の多層化×多角化モデル。顧客ニーズの接点に合わせて事業を展開している

 

ワンストップモデルによるLTV向上

 

顧客接点の増加は、さらなるLTV(顧客生涯価値)の向上につながる。前述したとおり、同社は多層化×多角化によってワンストップモデルを構築し、顧客接点を増加させている。これらの各事業やサービスが連動し、顧客が還流するようになっているのだ。(下図)

 

同社のモデルの特徴は、空き家問題や高齢者問題に対するアプローチを忘れておらず、社会的価値を実現しながら地域密着を体現している点が挙げられる。

 

今後、人口減少に伴い新築着工数の減少が予測されるなど厳しい住宅業界において、個性化を行い、地域に必要とされる会社となるためにも、顧客とつながり続ける「わが社らしいワンストップモデルの構築」が求められる。


波多野工務店が見据える地域の課題と各事業の関連性。顧客の還流によってLTVが向上し、真に地域に必要とされる企業となる

PROFILE
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波多野 智章 氏
株式会社 波多野工務店 代表取締役