【第1回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では「食品業界の『E・A・T』を極め、新たな顧客価値を創造する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、食品業界の新しい時流をつかみ、新たな顧客価値を創造することを目指している。
第1回は、「地域」×「食」による付加価値創造に主眼をおいて、「地域」の特色・地方ならではのメリットを「食」というソリューションで自社の付加価値にまで昇華させている秩父地域における成功事例として、視察先3社を訪問し、新たな付加価値創造戦略のポイントをご講演いただいた。
開催日時:2025年5月8日(山梨開催)
*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説
はじめに
株式会社アミューズは1978年に設立。サザンオールスターズ、福山雅治、Perfume、星野源、BABYMETAL、吉沢亮、清原果耶ら多くのアーティストマネジメントのほか、映像作品の制作および販売、オリジナル舞台制作などを手掛ける総合エンターテインメント企業である。
その事業は「イベント関連事業」、「音楽・映像事業」、「出演・CM事業」に分かれており、近年では、IP開発やスポーツビジネス、施設管理業務等、多様な事業を展開している。
2021年に本社を山梨県富士河口湖町の西湖に移転し、新規事業として魅力的な地域資産のもとで心と身体の健康を育む「ライフカルチャー事業」に取り組んでいる。なぜエンターテインメント企業である同社がライフカルチャー事業に取り組むのか、同社山梨プロジェクトのリーダーである鈴木智華氏にご講演をいただいた。
山梨県の本社である“アミューズ ヴィレッジ”は敷地面積約8,800㎡の屋外・屋内エリアを複合した施設である
なぜアミューズがライフカルチャー事業に取り組むのか
同社は“感動だけが、人の心を撃ち抜ける”という企業理念のもと、ミュージシャン・俳優・アスリート・文化人・映画・ドラマ・舞台・ミュージカル・アニメとあるゆる才能とつながり、世界と勝負するアーティスト・作品・技術をプロデュースしてきた。
その最中、新型コロナウィルスの流行が発生し、同社も企業理念へ改めて立ち返り・見直す機会が生まれたという。
企業理念に立ち返る中で、同社は人・モノ・コト全てをプロデュースする企業であると再認識し、大自然の中で楽しむアクティビティ・シェフ・レストラン・生産者・農場・ワイナリー等の「日本に眠っている様々な地域資産」とつながり、予測困難なこれからの時代において「人が生きる力」をプロデュースしていくべきだと企業理念を再解釈した。
富士河口湖町にある本社“アミューズ ヴィレッジ”を起点に、様々な地域資産を活用し、地域ブランドをプロデュースするライフカルチャー事業に取り組んでいる。
アミューズ ヴィレッジの屋内施設には企業理念が大きく掲げられている
地域でのネットワークづくりの重要性
山梨県富士河口湖町へ本社移転後、右も左も分からない中で、まずは地域の飲食店やローカルTV局等へ足繫く通い、地元へのネットワークを作ることから始めたという。一期一会を大切にし、丁寧な関係作りを徹底した結果、地元とのつながりは徐々に深まっていった。
地域ブランドのプロデュースとして、「CALIN CHOWDER」を展開している。同店は富士河口湖町で地域の食材を活用し、ミシュランシェフに開発・監修をしてもらったクラムチャウダーを販売している。加えて同店のロゴデザインはアミューズの自社アーティストがデザインを手掛けており、地域資産と自社のリソースを掛け合わせた好事例である。
また、山梨と瀬戸内のシェフを掛け合わせ、それぞれの地域で育まれた食材やノウハウの化学反応を体験できる「シェフズコラボレーション」というイベントを開催し、山梨県内だけに留まらず、地域ブランド同士をつなぐ事業の展開も加速させている。
山梨県内の幅広いワイナリーが協賛している、西湖収穫祭を主催
地域ブランドの創造連鎖
西湖で食を通じた地域ブランドプロデュースを手掛けていく中で、「ゴ・エ・ミヨ」(フランス発のミシュランに並ぶレストランガイドブック)3年連続受賞・2023年に農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」を受賞した豊島雅也氏との出会いがあったという。
豊島氏は日々、狩猟や山菜収集等のため山々へ出向くことから、講演者である鈴木氏自身も狩猟免許を取得し、狩猟へ同行する等を通じて関係性を深めていった。
シェフ・お客様・生産者とのつながり大切にし、食というカルチャーの底上げをしたいという両者の思いが共鳴し、料理長に豊島氏を迎え、アミューズがプロデュースする「RESTAURANT SAI 燊」を2024年にオープンした。
地域に根付き挑戦することで、応援者・理解者が増えていく。そこから派生して、ヒト・コト・モノの紹介・情報共有が起こる。そして、経験値が増え、地域からの信頼も得て、思いがけない次の展開が連鎖していった。地域で根ざすことからしか生まれない、地域ブランドの創造連鎖があることを学びとることができる。
料理長に豊島雅也氏を迎え、アミューズがプロデュースするRESTAURANT SAI 燊
