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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2025.05.30

新しい食品価値創造の実現 ~一流シェフの味覚・知見で商品価値を再定義する~ Taste Link

【第2回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では「食品業界の『E・A・T』を極め、新たな顧客価値を創造する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、食品業界の新しい時流をつかみ、新たな顧客価値を創造することを目指している。
第1回は、「地域」×「食」による付加価値創造に主眼をおいて、「地域」の特色・地方ならではのメリットを「食」というソリューションで自社の付加価値にまで昇華させている秩父地域における成功事例として、視察先3社を訪問し、新たな付加価値創造戦略のポイントをご講演いただいた。
開催日時:2025年5月8日(山梨開催)


*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

はじめに

 

株式会社Taste Linkは代表取締役の戸門氏が2023年に設立した、食のプロと企業を繋ぐプラットフォームを通じ、食文化の価値を最大化し業界の発展を目指しているベンチャー企業である。

戸門氏は、郷土料理店「ともん」を営む家庭で育ち、和食料理人や飲食コンサルタントを経て、2011年に厳選レストランの予約・決済サービス「ポケットコンシェルジュ」を創業。2019年に同サービスをアメリカンエキスプレス(Amex)に売却し、子会社社長としてダイニング事業の強化に尽力してきた。2023年にAmexを退職後、飲食業界で働く人の価値創出を支援したい想いから、株式会社Taste Linkを設立。

一流シェフの味覚・知見で企業の商品価値をどのように高めているのか、具体的な企業の活用事例も開示しながら、戸門氏にご講演をいただいた。

 

戸門氏のプロフィール写真
戸門氏のプロフィール写真


 

食のプロと企業を繋ぐプラットフォームの価値

 

今まで携わってきた“飲食業界をアップデートしたい“。戸門氏自身が元料理人のため、もともと料理人側の知見があった。料理人の矜持や食材への理解の深さ、”料理人”を満遍なく熟知していた。加えて、「ポケットコンシェルジュ」事業の運営経験から、プラットフォームの“価値”を本質的に理解していた。そして、「食のプロと企業を繋ぐ」プラットフォームの提供を開始した。

利用する企業側では、一流シェフへのアンケートやインタビューを通じて、一流シェフの持つ付加価値が可視化され、企業課題に合致した一流シェフにピンポイントでオファーできる。

一流シェフ側では、「アイデアの壁打ち」が可能となる。直接企業とコミュニケーションを取る機会に恵まれ、今、企業側でどんな課題やニーズがあるのか、直接把握できる貴重な場となる。シェフが現場で磨いてきたノウハウ・技術・アイデアを企業とのコラボとして発信でき、お客様の反響などがきちんとフィードバックされ、マーケティングの一環としても活用できる。

企業の課題解決と一流シェフのアイデアを繋ぎ、飲食業界の発展に欠かせない仕組みである。

 

企業と一流シェフが持つ価値を繋ぐプラットフォームを提供している
企業と一流シェフが持つ価値を繋ぐプラットフォームを提供している

 

 

一流シェフの持つ専門性と付加価値

 

なぜ、一流シェフに価値があるのかを考えた時、“予約が取れない繁盛店”「席数が少ないカウンターの店」であることが理由の一つかもしれない。なぜなら、そこに来店するお客様の傾向として、食のトレンドに敏感で、普段から食べ歩きをしていたり、情報インプットの量が圧倒的であったり、食に対する感度も質も高い。

 

そのため、いつも同じことをしていては飽きられてしまうので、月ごとにコースメニューを変えたり、どうやってニーズがあるのか見ていることが多い。その時、カウンターなので目の前で直接お客様に声を聴けて、料理提供時にも自らプレゼンテーションを行うため、言語化する機会も多い。

このように、一流シェフは高度な味覚や技術を持ち、専門的な知見を提供できるだけでなく、現場で日々創意工夫しながら新メニューの開発を行う。その過程で磨かれたアイデアが蓄積され、それがシェフの提供価値の宝庫となり、独自の専門性や付加価値となる。

 

同社に参画している、食のプロの紹介(一例) 同社HPより抜粋
同社に参画している、食のプロの紹介(一例) 同社HPより抜粋

 

食のプロの味覚・知見で自社の価値を再定義

 

今回、講演参加会員様へ事前アンケートを実施し、課題を構造化して整理した。その結果、課題の構造は大きく5つに分類でき、社内リソースだけではなかなか解決が難しい、深刻な状況であることが浮き彫りとなった。特に、従来の発想にとらわれた「知見のインプット」と、品質と量産の両立が難しく「即商品化に繋がるアウトプット」に課題が集約された。

一流シェフへ依頼する企業側の活用事例として、新規事業の立ち上げ、新メニューの開発など、新たな取り組みのタイミングで利用されることが多い。事業立ち上げや開発時点では売上計上が見込めず、「他部門を巻き込めない」「開発に人員を割けない」といった企業側特有の事情が絡んでくるためである。

これらの課題を解決するため、企業の課題ややりたいことに強い関心を示す一流シェフを厳選し、具体的な提案やフィードバックを提供する。一流シェフの専門的な知見が加わり、効果的な営業活動や市場アプローチが実現する。そして、まだ生まれていない新たな“食”の価値が提供される。つまり、食のプロの味覚・知見で自社の価値を再定義できるのである。

 

 

同社サービス「Chef Insight」のプロジェクトサイクル概要
同社サービス「Chef Insight」のプロジェクトサイクル概要

PROFILE
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戸門 慶 氏
株式会社Taste Link 代表取締役