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研究リポート
建設ソリューション成長戦略研究会
人件費・資材の高騰、地方の衰退など、外部環境の変化に合わせて提供価値を進化させている企業を研究し、建設業界の発展に寄与する機会を作っています。
研究リポート 2025.05.29

DXと社員の「多能工化」で事業展開を加速 テラスホールディングス

【第4回の趣旨】
タナベコンサルティングの建設ソリューション成長戦略研究会は、秀逸なビジネスモデル・経営ノウハウを持つモデル企業の現場を体感する機会と、経営改革・業務革新のヒントを提供している。また喫緊の課題となっている長時間労働や人手不足、技術の継承などの課題に対して、「働き方改革」の本質の理解と課題へのアプローチ方法についても学ぶ。
第4回では、 1958年創業の桑原組を中核とするグループ3社で構成されるテラスホールディングス(本社:広島県広島市)の代表取締役・桑原明夫氏をはじめ、環境リスクマネジメントご担当者、空き家管理担当の実務ご担当者など計4名に講演いただいた。

開催日時:2025年3月25日(広島開催)

 

はじめに

 

テラスホールディングスは、桑原氏が桑原組の4代目社長に就任した2008年、リーマン・ショックの影響で最盛期の半分にまで落ち込んだ年商を立て直す必要があった。しかし、リストラは行わない方針を掲げ、翌09年には、祖業である解体工事業に加えて特定建設業許可を取得し、環境リスク対策事業を展開。さらにリサイクル事業に参入した。これにより生産性の向上を図り、グループの基盤を築いた。

 

3D CADやBIMの活用を積極的に推進し、施主への提案力を強化するとともに、現場での「見える化」を徹底。また、タナベコンサルティング主催の研究会に積極的に参加し、視察先における良品計画担当者との出会いを機に、「無印良品の家」を活用した住空間創造事業に参入。加えて、宅地建物取引業の免許を取得し、不動産開発・仲介・売買を一貫して行う「ワンストップ土地更地化」ビジネスモデルを商標登録することに成功した。

 

現在は、空き家管理ビジネスにも取り組み、「人と街の歴史を未来につなげる」をコンセプトに、街づくり創造事業として4つの事業を展開している。

 

テラスホールディングスのビジョンループ 出所:テラスホールディングス講演資料

 


 

ビジョンループと人事理念の実現を目指す人的資本経営

 

1958年創業で67年の歴史を持つ同社は、創業100周年を目指して、「変化への対応力」を生き残りの鍵と位置付け、「意思決定のスピード」を最大の武器に、小回りの利く経営を展開。顧客ニーズに応え、自社のファンを獲得することに注力している。

 

加えて現在は、顧客や社員だけでなく、社会・地域・地球にとっての自社の存在価値を語る必要性を認識し、事業継続を念頭に置きながら、自社のストーリーを発信することを重視。創業時の背景や企業理念を、持続的成長を果たすための「ビジョンループ」を設計している。

 

同社が考える街づくりは、「再生」「創造」「暮らし」「集う」という4つの要素がループし、それぞれがつながり、相互に影響を与え合うことで新たな価値を生み出すものである。この考え方は、「自ら機会を創り出し、その機会によって自らを成長させよ」という人事理念にも通じており、人材の成長を重視した経営を行っている。

 

DX推進による生産性向上と環境リスクマネジメント

 

同社の主力事業である解体工事部門は、土壌汚染対策にも対応し、建築可能な「完全な更地」を提供している。また、解体見積もりに伴う不動産情報の活用や、更地化後の不動産提案にまで事業を拡大。近年では、DXを通じた生産性向上にも注力している。

 

具体的には、2D図面の課題を解消するため、3D図面の活用を開始。これにより、現場の危険箇所が視覚的に把握しやすくなり、安全対策が強化された。また、図面に不慣れな人でも理解しやすい計画書を作成できるようになり、工事の危険箇所や重要ポイントを事前に現場担当者に共有できるようになった。さらに、建物の構造を把握することで、見積もり書の作成にも活用できるようになった。

 

加えて、現場管理の課題解決を目的にクラウドカメラを導入。遠隔管理によって労働負担の軽減や情報共有の円滑化ができ、作業効率の向上と安全対策の強化にも役立っている。

 


3D図面の活用 出所:テラスホールディングス講演資料

 

 

顧客第一主義を支える「多能工化」

 

同社は、顧客に選ばれる商品・サービスを提供することを最優先に考え、「品質」「センス」「スピード」「サービス」の4点を重視している。建設現場では、朝礼時の指差し確認や飛散防止養生のためのケージシステムの設置を徹底。同社が企画・設計・施工した広島駅ビル直結の大型フードホール「GRANDGATE HIROSHIMA(グランゲート広島)」では、コンシェルジュが顧客の声を丁寧に聞き取るなど、顧客第一主義を徹底している。

 

また、「環境整備の目的を明確にする」「電話対応は会社の代表者として行う」「接客を通じて会社の雰囲気を伝える」「言葉を磨く」といった基本姿勢を徹底し、顧客に好かれ、信頼される企業を目指している。

 

同社は、社員に対して「自分の限界を自分で決めず、既成概念にとらわれず挑戦すること」を奨励しており、その成長をサポート。具体的には、職務転換による「多能工化」を推進し、社員が自分のキャリアを形成する機会を提供している。例えば、空き家管理事業の責任者・北川史織氏は、「無印良品の家」の営業担当、営業アシスタントを経て、空き家再生事業の担当者となり、現在は責任者として活躍している。

 

同社は、資産売却やリノベーションの相談までを含めたビジネスモデルを確立し、社員が主体的に事業に関わる仕組みも構築しているのである。

 


職務転換の例 出所:テラスホールディングス講演資料

PROFILE
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桑原 明夫氏
テラスホールディングス株式会社 代表取締役