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研究リポート
コンシューマービジネス研究会
変容する社会課題や顧客課題を的確に掴み、ドメインとバリューチェーンの拡大を切り口にした新たな「ライフスタイル価値」を創造するための真髄に迫ります。
研究リポート 2025.04.09

撚糸メーカーから真のグローバル企業への挑戦 浅野撚糸

【第2回の趣旨】
コンシューマービジネス研究会(第4回)は「ビジネスモデルの開発」をテーマに開催した。タナベコンサルティングからは3点提言している。
❶ ビジネスモデルのパターンから選択
❷ サプライチェーン・バリューチェーンをアップデート
❸ 独自性を前提とした収益構造の転換
ビジネスモデルとは「儲ける仕組み」と言われるが、儲かればビジネスモデルが構築されているということではなく、「どのような顧客に対して、どのような価値を、どのように提供し、利益を上げるのか」が明確になっていないといけない。全ての事業は「誰に」「何を」「どのように」提供するかで価値発揮をし対価を得ている。なお、ビジネスモデルを転換するためには、この3つのうち2つ以上を変えていくことが必要である。
自社の課題や取り組み内容をディスカッションすることで、自社のビジネスモデルにおける取り組みの方向性を検討する機会となった。
開催日時:2025年3月24~25日(愛知開催)

 

はじめに

1969年に設立された浅野撚糸株式会社は、岐阜県安八町に本社を置く撚糸メーカーで、高機能タオル「エアーかおる」などの製造・販売を行う企業だ。

創業以来、化学繊維を駆使した複合撚糸の開発に注力し、特に「ナンバーワンよりもオンリーワン」を理念に掲げ、独自の技術を持つ製品を市場に提供する。代表的な製品である「SUPER ZERO®」や「エアーかおる」は、業界内での競争力を高め、顧客から高い評価を得ている。近年では、福島への工場設立を通じて新たな雇用を創出し、地域貢献にも力を入れている。浅野撚糸は、今後も世界に通用するオンリーワン企業を目指し、さらなる技術革新を追求していく。

BtoB企業からBtoC企業へと変化し、成長し続ける同社について、まとめた。

 

浅野撚糸
浅野撚糸(株)


 

オンリーワン企業への挑戦

 

浅野撚糸株式会社は、1969年の設立以来、撚糸製造を主な事業として成長を遂げてきた。

しかし、2000年代初頭の海外製品の台頭により、一気に仕事が激減してしまう。倒産の危機に陥りながらも、同社は「ナンバーワンよりもオンリーワンを目指す」という理念を掲げ、独自の技術開発に注力した。その結果、SUPER ZERO®(※1)やエアーかおる(※2)といった革新的な製品を生み出し、業界内での競争力を高めることに成功した。特にエアーかおるは、超機能タオルとして市場に受け入れられ、同社のブランド力を一層強化した。

このように、困難な状況を逆手に取り、独自の価値を提供することで、顧客のニーズに応える姿勢が、同社の成長を支える重要な要素となっている。今後も、浅野撚糸は「オンリーワン企業」としての地位を確立し、さらなる技術革新を追求していくことで、持続可能な成長を目指していく。

 

※1  SUPER ZERO®:水に溶ける糸を使用した特殊撚糸工法による新素材糸
※2 エアーかおる:SUPER ZERO®を活用した軽量感、吸水性、速乾性に優れた高機能タオル

 

 

福島県双葉町から世界への挑戦

 

2019年、福島県双葉町に30億円を投じて新工場を建設した。この工場は、地元の雇用創出を最大の目的としており、岐阜の本社工場の3倍の規模を誇る。工場内にはお土産用のショップやカフェも設置され、地域の活性化にも寄与することを目指した。

しかし、2022年に一部の避難指示が解除され、500人の住民が戻ってくると期待されていたが、実際には30名ほどしか戻らず、雇用創出の目標が達成されないという厳しい現実に直面した。さらに、コロナウイルスの影響やウクライナ侵攻による資材高騰が重なり、売上の減少と借金の増加が同社を再び厳しい状況に追い込んだ。

このような困難な状況を打破するため、浅野撚糸は地元の高校を訪問し、現地採用の強化を図るとともに、新たな販路の拡大に取り組んだ。これにより、2025年には黒字化を見込む。

今後も企業研修や海外からの視察を多数受け入れ、自ら先頭に立って観光目的のシンボルとなり、福島から新たな価値の創造に挑戦していく。

 

浅野撚糸(株)
浅野撚糸(株) 福島県双葉町の新工場「フタバスーパーゼロミル」

 

 

真のグローバル企業への挑戦

 

東京・南青山に新たに設立された『SUPER ZERO Lab』では、SUPER ZERO®を素材にしたアパレル製品の制作が進められている。世界的なテキスタイルデザイナーである梶原加奈子氏とのコラボレーションにより、『ASANO KANAKO KAJIHARA』というブランドが誕生し、生地や質感に徹底的にこだわった商品が展開されている。

 

これらの製品は海外の展示館にも出展され、数多くの国際的なブランドとの取引が進行中である。浅野撚糸は、撚糸メーカーとしての確かな品質と技術を基盤に、世界市場への挑戦を続けている。

決して現状に満足せず、今後も社員全員が一丸となってグローバル企業への道を切り開き続ける。

 

浅野撚糸(株) 東京・南青山「SUPER ZERO Lab」
浅野撚糸(株) 東京・南青山「SUPER ZERO Lab」

※写真は同社HPより引用

PROFILE
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浅野 宏介 氏
浅野撚糸株式会社
専務取締役