【第2回の趣旨】
タナベコンサルティングのコンシューマービジネス研究会第3回は、「ブランディング」と「マーケティング」をテーマに開催した。
タナベコンサルティングは、次の3点を提言している。
❶自社の事業や専門性を再定義し、新たな価値を生み出す
❷自社の経営資源を生かし、非顧客を顧客化する
❸アジャストするためのビジネスモデルを構築する
未開のマーケットを開拓し、非顧客を顧客化するために最も重要な戦略アプローチがブランディングである。今回は、ゲスト企業2社の講演から企業理念を大切にしたブランディングや持続可能な未来への挑戦を学んだ。
研究会参加者は、自社事業の強みや専門性を再定義し、新たなマーケットと新たな価値を創造し続ける2社の講義を受け、自社の企業価値を高めるブランディングの重要性や、ユーザーとのコミュニケーション手法を学んだ。
開催日時:2025年1月27日(福岡開催)
17年間の連続赤字から大復活を遂げた石けんメーカー
シャボン玉石けんは、1910年に創業した石けん洗剤の製造・販売を手掛ける企業で、創業後は合成洗剤の卸売りが主力事業であった。1971年3月に、国鉄(現JR)から「機関車を洗ってもサビが出ない無添加石けんを作ってほしい」という依頼があったことがきっかけで、香料や蛍光増白剤、酸化防止剤、合成界面活性剤といった添加物を一切使わない無添加石けんを試作した。開発者の森田光德前会長がこの石けんを自宅で使用したところ、長年悩んできた湿疹が治ったことで、合成洗剤の問題点に気が付いた。
同社は「体に悪いと分かった商品を売るわけにはいかない」と一大決心し、1974年に無添加石けんの製造・発売に切り替えた。しかし、合成洗剤が広がり続ける時代に逆行した無添加石けんの売り上げは伸び悩み、売上高は100分の1に減少。1974年以降の17年間は連続赤字となり、100名いた従業員は5名にまで減ってしまった。
シャボン玉石けんは北九州にある本社工場で製品を製造。大型の石けん釜で油脂と苛性ソーダを反応させ、約1週間かけて炊く「ケン化法」を採用している
逆風でも貫いた企業理念
業績が低迷を続ける中、同社は企業理念の「健康な体ときれいな水を守る」を貫き、世の中に石けんの安全性を提起し続け、ステークホルダーの説得を試みた。転機となったのは、森田氏の著書『自然流「せっけん」読本』(農山漁村文化協会、1991年)の出版だ。世の中に合成洗剤の危険性と石けんの安全性が広がったことで、業績は大きく回復した。
この経験から、ものづくりにこだわるだけでなく、その価値を言語化し、消費者にうまく伝えて「共感」を得ることで、初めて業績につながることを痛感したという。
同社は、「理念に反することはやらない」という価値判断基準を起点に、ミッション→社是(「好信楽(シャボン玉を好んで、シャボン玉を信じて、シャボン玉を楽しむ)」)→長期ビジョン→中期経営計画へと落とし込みを行うことで、理念実現に向けて推進力を高めている。
こうした取り組みが、企業理念の実現につながっており、今日のシャボン玉石けんをつくっているのだ。
工場見学では、石けんの製造工程を見たり、触れたりすることで、「健康・安全」にこだわった石けんづくりの現場を体感できる
価格競争に陥らない売り場づくり
人や環境への取り組みについての発信は、同社の売り場づくりにも反映されている。
無添加石けんに事業を切り替えた1974年から、同社は環境に配慮した取り組みを続けてきたが、SDGs未来都市である北九州市と「SDGs包括連携協定」を2019年に締結し、楽しく正しい手洗い啓発による感染症対策や、工場見学・出張授業などの環境学習、多くの小売店でSDGs売り場なども展開している。
また、販促でも、脳に負担をかけない広告「ニューロマーケティング」を意識。単に文字で「化学物質不使用」を謳うだけでなく、白衣を着たモデルによる「写真×権威」の販促、「洗顔でお肌のバリアをこわしているかも…」といった「写真×恐怖」の販促に、お肌の潤いを守って優しく洗い上げる「損失回避」面を組み合わせるなどの工夫がみられる。
こうした取り組みや売り場づくりの工夫もあって、一般消費財であっても過度な価格競争に陥らないマーケティングを実現できている。
売り場づくりでは、SDGsへの取り組みを訴求した掲示に加え、脳に負担を負担をかけない「ニューロマーケティング」を実践
「無添加石けんへのこだわり」を伝えるブランディング
シャボン玉石けんは、経営トップ自らがブランディング活動に取り組み、「健康・安全」にこだわった石けんづくりを発信している。
石けんの製造を行う本社工場では、工場見学を行っており、年間来場者数は約2万人を誇る。また、約3万人を有する会員制度「シャボン玉友の会」による割引サービスやイベント実施で顧客と直接つながり、商品を好きになってもらうための施策を打つことで、継続的な購入を促し、LTV(顧客生涯価値)向上を実現。戦略PR(プレスリリースなど)も活用して認知度を高めることで、小売り店舗での取り扱い増加に向けても取り組んでいる。
浴用石けんや衣料用石けんだけでなく、洗顔や歯磨き、ベビーソープ、医療用手洗い石けん、林野火災用消火剤など、商品ラインアップを拡大。大学との連携開発も行うなど、シャボン玉石けんの「健康な体ときれいな水を守る」挑戦はまだまだ続く。
会員制度「シャボン玉友の会」では、購入商品の割引だけでなく、ファンミーティングや石けん勉強会など、新たなタッチポイントを創出している

取締役 営業本部長