【第3回の趣旨】
アグリサポート研究会では、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトとして掲げている。
第3回は、鹿児島県屋久島でアグリ業界の成長モデルを視察。
1社目は、屋久島の自然豊かな環境を生かし、高品質な有機栽培のお茶を生産、栽培、加工、販売までの一貫した自園自製販売体制を確立し、お茶本来の風味豊かなお茶を提供されている、屋久島八万寿茶園様。
環境への取り組みや雇用創出といった地域貢献にも注力しており、持続可能な農業への取り組みが評価されている。2社目は、地域の自然環境を生かした屋久島で唯一黒毛和牛の繁殖、肥育、精肉販売を行う、西橋産業様。
今回は、西橋産業様に持続的成長モデルを実現するためのポイントについてお話しいただいた。
開催日時:2025年1月28日
はじめに
和牛の繁殖経営からスタートし、2023年に会社を設立。地域の自然環境を生かした屋久島で唯一黒毛和牛の繁殖、肥育、精肉販売を行う。高品質な畜産物を生産しており、屋久島育ちのメスの仔牛の8割は“松阪牛”の購買業者(肥育農家)に引き取られている。2024年には2軒目の直売所と初の焼肉店をオープンさせ、地域経済の活性化にも寄与し、観光客にも人気のある製品を提供している。また、メスの「屋久島姫牛」とオスの「屋久島西橋牛」のブランドを取得し、さらに魅力を増している。
2025年3月には屋久島のスーパーマーケット精肉部門にテナントでの営業を予定しており、4月には焼肉店2号店を開業予定など勢いのある会社経営をされている。
屋久島から神戸・近江・松坂の三大産地へ
西橋産業で飼われているのは、西橋専務の修業先でもある徳重和牛人工授精所から譲り受けた、血統の良い種から生まれた生粋の黒毛和牛である。屋久島で育った仔牛は、肥えすぎず骨格がしっかりしているのが特徴で、出荷後の成長が著しいため「あと伸びがいい」と、セリではいい値が付く。
和牛は血統によってセリの値が大きく変わるのも特徴であり、いわゆる「サシ」と呼ばれる、赤身に脂肪が差し入る肉になるには、血統のいい遺伝子の掛け合わせがとても重要になる。さらに、徹底された体調管理ときめ細やかな餌の配分により健康に育ち、屋久島の綺麗な水や大自然の恵みを受け、半放牧でストレスなく育ったこともあり、屋久島の和牛はとても評価が高い。その評価は折り紙付きで、和牛の三大産地である神戸・近江・松坂へと引き取られている。
半放牧で飼育されている屋久島の和牛
生後2カ月の仔牛
分娩時の死亡率0への取り組み
西橋専務は牛の人工授精を行う資格を持っており、屋久島内の和牛への種付けの担当をしている。分娩に向けた管理では、牛の尻尾にセンサーを入れており、分娩のタイミングをスマホで確認できる。そのため、破水や産まれるタイミングがメールで分かるのである。
さらに、夜間の分娩であれば獣医が駆け付けられないこともあるため、昼間に産まれるように食事のタイミングを変更するといった工夫が成されている。
分娩時には、和牛ではなく乳牛のお産方法を取り入れている。和牛は仔牛をロープで引っ張ることが多いが、ロープだと子宮が出てくることがあり、それを戻すと細菌が入ったり、戻せなければ死んでしまうリスクもある。実際に屋久島内の農家では、お産の道具を使わずに亡くなる牛が年間30頭程いたという。
西橋産業の取り組みにより、分娩中の死亡率は格段に減少し、2024年の死亡は1頭のみであった。これは経営に直結する深刻な問題であったため、分娩時の死亡による赤字も改善されたのである。
徹底した繁殖管理表
分娩用の道具。テコの原理で引出す
島民と観光客においしい肉を届ける
西橋産業は屋久島で唯一、黒毛和牛の繁殖から肥育、精肉販売を行っている。さらに、屋久島空港のすぐ側という好立地に精肉店を開店し、すでに2号店が開店予定と勢いは留まらず、屋久島の島民だけではなく観光客をも魅了している。
精肉店では、自社の鹿児島黒牛と屋久島黒豚ファームの鹿児島黒豚を取り扱い、A5ランクからB3ランクまでのさまざまな部位の屋久島産冷凍精肉を用意しており、全国への発送もされている。メスの「屋久島姫牛」とオスの「屋久島西橋牛」の自社ブランドも取得しており、地方発送にも積極的に取り組まれている。
また、精肉は島内のホテルやレストランにも卸してはいるものの、屋久島産の肉を食べたことのない島民も多くいるため、精肉店や焼き肉店ができたことで、多くの島民に屋久島の自然の中で育った肉のおいしさを届けているのである。
空港付近の屋久島精肉店
黒毛和牛の冷凍販売

専務取締役