【第3回の趣旨】
タナベコンサルティングのホールディングス・グループ経営モデル研究会第3回では、TAKUMINOホールディングスの取締役グループCFO(最高財務責任者)である香川慶人氏を招き、M&Aを活用したグループの成長の軌跡について講演いただいた。
建設業の後継者不在率は全産業で最も高い。小規模事業者の割合も多く、付加価値の低い事業者は縮小せざるを得ない状況も建設業界全体の課題といえる。TAKUMINOホールディングスは、これらの課題に対して付加価値を高めるプラットフォーム機能を提供することで、社会課題の解決とグループとしての成長に取り組んでいる。
本研究会では、建設業界の抱える課題をグループの成長により解決していく過程で重要となるM&A戦略、グループガバナンス構築への取り組みを考察した。
開催日時:2025年1月28日(東京開催)
匠(TAKUMI)の技術で社会基盤をつくるインフラ建設業
TAKUMINOホールディングスは、福島県で創業した小野工業所が前身であり、2015年から現在に至るまで12件のM&Aを実施している。また、3回にわたるグループ内企業再編を行い、生産性(付加価値)を高めることで成長を続けてきた。
同社のM&Aは、グループ内企業のシナジーの最大化を図り、スケールアップによる付加価値向上を目指している。
シナジー最大化の取り組みでは、受注工事の重要工程をグループ内企業で内製化することで、従来は外注先が得ていた利益を自社に取り込むことに成功している。スケールアップすることで賃金水準の引き上げを実施しながら、収益力の強化も実現している。
今回の研究会では、M&Aを成長につなげる同社のホールディングス経営の実践モデルと成果について考察を行った。
出所:TAKUMINOホールディングス講演資料
建設業界の課題とTAKUMINOグループの成長
建設業が抱える3つの人材難は、①技能労働者の不足、②技術者の不足、③経営者の不足である。同社は、建設業界が抱えるこの課題解決への取り組みを、自社の成長につなげるグループ経営モデルを確立している。
建設業は小規模事業者の割合が93%と高く、本来0.5人で足りる管理コストを1名分必要とするなど、付加価値の観点からマイナス要素が多い。小規模事業者は人材採用にも積極的ではないケースが多く、今後縮小していく可能性が高い。そこでTAKUMINOホールディングスは、M&A実施企業の管理コストを適正にコントロールし、グループ内再編や事業上の連携を実施することで、付加価値を高める成長戦略を構築している。
建設業界が抱える人材不足に正面から向き合う中で、グループ内シナジーを強める戦略ストーリーにつながる手法が確立されている。
出所:TAKUMINOホールディングス講演資料
M&Aにおけるホールディングスの優位性
同社は、前身の小野工業所のときからM&Aを基本戦略に掲げてきた。しかし、事業会社であるがゆえ、大きく2点の課題が生まれ、ホールディング経営への移行を選択した。
1点目は、事業会社が親会社になる場合、売り手企業の心理的ハードルが高くなることである。事業領域が一致しない企業を買収する場合には、直接的な親子間のシナジーを求められるなど、特に難しくなる。
2点目は、グループ会社管理業務の拡大により、本業の適性な収支が見えにくくなったことである。管理部門には、グループ管理業務と本業の業務の両方を担う人員が増えていた。
ホールディングス化はこれらの解決策となり、現在までM&A戦略の実行性を高めている。
ホールディングスは管理本部、事業推進本部の2本部制を採用。
専門スキルを有する人材を配置し、戦略推進機能を高めている
出所:TAKUMINOホールディングス講演資料
ゴールを明確にしたPMIプロセス
グループシナジーを発揮していくため、PMIプロセスでは当初から「TAKUMINO標準」をゴールとした取り組みが行われ、グループとしての一体感が醸成されている。
PMIプロジェクトマネジャーは各職能チームを率いて、誰が何をいつまでやらなければならないか明確化し、早期のシナジー発揮を実現している。
また、このサイクルを繰り返していくことで、建設業のPMIノウハウを蓄積し、基本戦略であるM&Aを成功に導いている。
PMIを効果的に実施していることで、ホールディングスで掌握する管理業務と、事業会社の権限の範囲を明確にでき、M&Aが基本戦略として機能する土壌をつくり上げている。
PMIにかかるプロセス。案件当初から「TAKUMINO標準」をゴールに設定し、グループシナジーを創出している
出所:TAKUMINOホールディングス講演資料

取締役 グループCFO