【第3回の趣旨】
アグリサポート研究会では、「アグリ関連分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトとして掲げている。
第3回は、鹿児島県屋久島でアグリ業界の成長モデルを視察。
1社目は、屋久島の自然豊かな環境を生かし、高品質な有機栽培のお茶を生産、栽培、加工、販売までの一貫した自園自製販売体制を確立し、お茶本来の風味豊かなお茶を提供されている、屋久島八万寿茶園様。
環境への取り組みや雇用創出といった地域貢献にも注力しており、持続可能な農業への取り組みが評価されている。2社目は、地域の自然環境を生かした屋久島で唯一黒毛和牛の繁殖、肥育、精肉販売を行う、西橋産業様。屋久島の綺麗な水を使って高品質な畜産物を生産している。
今回は、屋久島八万寿茶園様に持続的成長モデルを実現するためのポイントについてお話しいただいた。
開催日時:2025年1月27日
専務取締役 渡邉 桂太 氏
農林普及課 片山 隆之 氏
はじめに
屋久島の自然豊かな環境を生かした屋久島八万寿茶の収穫時期は3月末~8月と日本で一番早い。高品質な有機栽培のお茶を生産しており、収穫回数は1番茶~4番茶と全国に比べて1回多い。6.53haもの広大な敷地で茶を栽培しており、茶工場と店舗も独自経営している。
また、栽培から加工、販売までの一貫した自園自製販売体制を確立し、お茶本来の風味豊かなお茶を提供する一方、環境への取り組みや雇用創出といった地域貢献にも注力する。
その持続可能な農業への取り組みが評価され、2020年度「九州未来につながる持続可能な農業推進コンクール」で九州農政局長賞を受賞。通販はもちろん、直売所の運営や国内外での消費者向けのイベントを通して、日本だけでなく世界中のファンを獲得している。
屋久島八万寿茶園の圃場
茶業経営の販売戦略
急須でお茶を飲む人口の減少に伴い、1番茶の価格は1999年と比べ半額以下になるなど下落基調にある。しかし、海外への輸出推移は直近10年間で2.5倍に増大。有機茶は特に海外でニーズが高まっている。
そんな中、屋久島八万寿茶園は約12年前から輸出をスタートさせ、有機JAS認証やASIAGAPをいち早く取得し、海外への販路を拡大する販売戦略を実施。ヨーロッパの現地消費者との交流を通して、ドイツやスイスの販売店でお茶のセミナーを開催したり、屋久島在住の書道家による漢字を使ったパッケージで世界へ発信している。
一番茶全体の約20%は荒茶販売で静岡県に送られ、約80%が仕上げ茶として屋久島から販売される。最近では鹿児島県と連携し、年に20回寄港するクルーズ船客への販売の形を模索している。物産展への出展などに比べると効率的な販売手法だ。
ドイツ・スイスの販売店でのお茶セミナー
書道家による漢字を使ったパッケージ
屋久島の強みを生かした栽培方法と商品開発
屋久島は366日雨が降ると言われ、自然災害(台風、大雨、降灰)のリスクも多いが、お茶の栽培においては気候を最大限に生かしている。
例えば、秋芽を刈り落としてそのまま肥料にしており、土壌は基本的には耕さない。圃場周辺の草は刈った後に細かく切って土壌にしたり、雨による土壌流出を防ぐため雑草の根を活用するなど、より自然に近い形での栽培を実現している。
こうした屋久島の気候を生かし、自然に近い栽培を行うことで、土壌・お茶の品質を維持し、希少価値の高いお茶を栽培している。また、お茶の大敵である霜は年間を通して発生することがないため、防霜ファンは一切利用しなくて良いのも特徴である。
また、言わずもがな屋久島は“世界自然遺産”の地であり、毎年多くの観光客が来島する。観光客向けに開発した直売所の「屋久島茶ソフトクリーム」はその美味しさと立地の良さで大ヒット。地元客にも人気だ。他にも様々な土産商品を開発し、屋久島の風景や文化を表したパッケージで売り出し、観光客に喜ばれている。
秋芽を刈り落とした土壌
スタッフ手書きのパッケージは、地元観光ガイドにも好評
屋久島への愛と地域連携
屋久島からの島離れを防ぐため、屋久島を盛り上げる活動も重要な取り組みの1つである。
屋久島唯一の高等学校とのコラボ企画では、「屋久島高校×屋久島茶」として、商品開発や鹿児島中央駅での販売を高校生と実施。高校生と一緒に考えることで、大人になった後、屋久島から離れてしまわないための取り組みである。さらに、「環境フェスタwithオーガニックマーケット」を屋久島高校と共同開催するなど、積極的に地域と共創。
26の有人離島を有する鹿児島において、島離れを防ぐことは重要であり離島文化経済圏のコミュニティ「RITOLAB(リトラボ)」に参加し、各地での視察交流やフィールドワーク、島を超えたコラボ商品の開発および鹿児島市内で合同の販売イベントを行うなど意欲的に活動している。
屋久島高校×屋久島茶
環境フェスタwithオーガニックマーケット