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研究リポート
ホールディングス・グループ経営モデル研究会
6つのホールディング経営タイプをベースに、新たなグループ企業を研究します。自社がどのようなホールディングスモデルとして進化するのか、共に考えましょう。
研究リポート 2025.03.04

M&Aによる効果的なホールディングス化の進め方 フジホールディングス

【第2回の趣旨】
タナベコンサルティングの「ホールディングス・グループ経営モデル研究会」第2回では、フジホールディングスのM&A責任者である川上泰生氏を講師に招き、「M&Aにおける効果的なホールディングス化の進め方」をテーマに講演いただいた。
物流業界は、「2024年問題」に象徴される労働時間規制の強化やドライバー不足といった構造的課題を抱えている。このような状況下で、フジホールディングスはM&Aを成長戦略の中核に据え、ホールディングス・グループ経営の視点から組織統合や経営資源の最適化を進め、グループシナジーの最大化に取り組んでいる。
研究会参加者は、同社グループ全体の持続可能な成長を実現するための戦略や、ホールディングス経営におけるM&Aの実践的な取り組みを知り、ホールディングス経営におけるM&Aの実践モデルを学んだ。

開催日時:2024年11月29日(東京開催)

 

物流業界のフロントランナー

 

フジホールディングスは、2024年11月現在、全国に132拠点を展開し、物流業界のフロントランナーとして存在感を発揮している。同社のホールディング経営におけるM&Aは、「全体最適」と「各社の独自性」の融合を重視しており、経営リソースの集約と自律のバランスを保ちながら実行されている。

 

全体最適の観点では、グループを横断する管理システムの導入や、独自の車両の導入、給油施設、整備工場といった差別化戦略をグループ全体に展開している。また、公認YouTuberを活用した採用ブランディングにより優秀な人材の確保に成功し、競争優位性を実現している。これらの取り組みにより、同社は持続的な成長を遂げている。

 


フジホールディングスのグループネットワーク 出所:フジホールディングス講演資料

 


 

M&A戦略によるダイナミックな成長

 

フジホールディングスは、成長戦略として「垂直型・周辺事業」×「M&A」という明確な方針を掲げている。この戦略に基づき、M&Aを通じて事業領域の拡大を図るとともに、グループ内での経営資源の最適化を進め、シナジーの最大化を実現している。

 

具体的には、①大型長距離輸送、②整備工場、③給油所の3つの軸を中心にM&Aを推進している。差別化された強みを掛け合わせることで、事業領域の拡大と運営効率化を両立させ、グループ全体としてダイナミックかつスピード感のある成長を実現している。

 

一方で、単なる規模拡大にとどまらず、経営統合後の成長を重視している。業界特有の財務リスクを考慮し、慎重かつ計画的なM&A戦略を徹底している点も特徴的である。

 


大型長距離の強みを伸ばす垂直型+周辺事業のM&Aを実践 出所:フジホールディングス講演資料

 

 

PMIの成功ポイント

 

PMI(Post Merger Integration)は、M&A後にグループ全体で統一された運営基盤を構築し、早期にシナジーを生み出すための重要なプロセスである。しかし、PMIは障壁となるケースも多い。フジホールディングスでは、以下のポイントに重点を置くことでPMIを成功させている。

 

①買収企業の全従業員に対し、丁寧かつ迅速に説明を行い、未来像を共有する
②人事制度や賃金制度をフジトランスポートに統一する
③人材交流を通じて成長機会を提供する
④経営資源(設備、システム、採用など)を共用化する
⑤フジホールディングスの顧客を紹介し、顧客に対してサービスの説明や適正運賃の収受を行う

 

これらの取り組みにより、グループインのメリットを実感できる体制を構築し、信頼関係を深めるとともに、グループ全体の一体感を醸成している。

 


公認YouTuberによる発信、採用支援ツールなど、グループ経営資源でシナジー効果を生み出し、グループ全体で安定した人材確保を実現
出所:フジホールディングス講演資料

 

 

ホールディングスとM&A戦略の親和性

 

フジホールディングスでは、持ち株会社に戦略策定や経営方針の中枢機能を集約し、事業会社には企業特性や地域特性に応じた自律性を与えている。この仕組みにより、M&A後の統合では買収企業の強みや文化を生かしつつ、グループ全体での効率性と収益性を高めることが可能となっている。

 

また、経営資源の共用化は、M&A後の業務効率化とコスト最適化に寄与し、グループ全体の企業価値向上につながっている。ホールディングス経営は、M&A後の統合プロセスにおいて高い適応力を発揮し、グループ全体の戦略方針と各事業会社の独自性や特性を両立させることに優れた経営スタイルである。

 

フジホールディングスにおいても、この手法が効果的に実践されている。「全体最適化」と「各社の独自性」が連動することで、持続可能な成長と競争力の強化が着実に実現されている。

 


全てのステークホルダーとの関係を重視し、19社の規模に成長。
各社の独自性とシナジーを生かしながら成長を続けている
出所:フジホールディングス講演資料

PROFILE
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川上 泰生 氏
フジホールディングス株式会社
執行役員
マーケティング部 部長