【第3回の趣旨】
デザイン経営モデル研究会では、さまざまな企業・団体の現場を「体験」する機会を提供することで、研究会のテーマである「体験価値」と「自社らしさ」を創る1つの資源であるデザインの力を持って、差別化と高収益を実現するためのヒントを提供している。
1日目は、株式会社TATの代表取締役社長である髙野芳樹氏と経営発展部人事課の眞子芙美子氏にご登壇いただき、デザイン思考で自社らしさを表したコアバリューと、その考えを基に作成した新しい評価制度の取り組みについてひも解く。
開催日時:2025年1月23-24日(大阪開催)
代表取締役社長 髙野 芳樹 氏
経営発展部人事課 眞子 芙美子 氏
はじめに
株式会社TATは、ネイリストやネイルサロン向けに商材や関連商品を販売するネイル用品専門商社である。商品の取り扱いだけでなく、ネイルサロンやスクールの経営支援、最近ではアスリート向けのネイル商材の販売など、幅広く事業を展開している。売上高は100億円を突破。業界トップシェアを誇り、ネイル商材のリーディングカンパニーとして業界をけん引してきた。
一時期は自社らしさを失いかけ減益・減収を経験したが、2016年に「コアバリュー」を定めた事でTATらしさを取り戻し、そこからV字回復を果たす。今回の講義では、TATの軌跡やコアバリュー、自社らしさの追求、一新させた人事評価制度などについて講演いただいた。
経営理念の体系図 (出所:講演資料から抜粋)
コアバリューの策定
同社は1998年に髙野芳樹氏の父である直樹氏が創業。当時はアメリカで生まれたネイル商材を輸入し販売していた。ネイル文化が徐々に日本にも定着し始め、市場が拡大していくと共に同社も成長を遂げていた。しかし、その一方で、社員の価値観にバラつきが生まれ、自社らしさを失い、2014年からは3期連続減益・減収に陥った。
そこで、2016年に芳樹氏が事業を継承し代表になったタイミングで、当時の幹部を中心にコアバリューを策定。社員へのアンケートを基に 「LOVE!ENJOY!WOW!」という3つの要素で構成されている。
コアバリューが浸透し、日々の業務の判断基準として機能した事で自社らしさを取り戻し、2017年にはV字回復をさせ現在まで売り上げは拡大し続けている。同社はコアバリューが業績にも結び付いた好例だ。
コアバリュー (出所:講演資料から抜粋)
コアバリューの浸透
コアバリューは価値観であるため、目には見えにくい。しかし、自社らしさを追求した価値観であるため、他社にはない強みになり得る。そのコアバリューを社内に根付かせ、浸透させるためのTATの取り組みはユニークだ。まずは、ブランドブックの「MOKBOOK」の制作だ。MOKの意味は「みんなの 想いが カタチになる」の頭文字を取ったものである。以前は経営指針書として作成されていたが、コアバリュー策定を機に印新。社員のアイデアや楽しさが詰まったブランドブックになっている。会社のミッションやビジョン、ネイル業界への貢献にまつわるエピソードなどが盛り込まれており、インナーブランディングの一環として活用されている。
また、1年に1回、全社員を集め「MOKfes」を開催している。いわゆる経営指針発表会として社員表彰や目標の共有など行うが、コアバリューに基づき、TATらしく、楽しくワクワクするよう、社員が考えたプログラムやドレスコードなどを交えながら進行する。TATらしさを社員が感じる事で、エンゲージメントの向上につながっている。
MOKfesの様子
新しい人事評価制度
2024年からは新しい人事評価制度を運用。会社や上司から目標を与えられるのではなく、どのように成長し、会社に貢献するのかを社員自身が自己設定・評価する仕組みである。
3~5名のチームを組成し、期初に社員自身で目標を定め、チームメンバーからフィードバックをもらいながら設定する。そして、期末に自ら振り返り、チームメンバーからフィードバックをもらい自己決定して評価する流れである。
旧来のような上下関係ではなく、メンバーがフラットな関係で自主的に意思決定を促せるように仕組みづくりをした。上司・部下の関係をなくし、究極的には役職をなくしたフラットな組織になることが、自社のコアバリューに沿っていると判断したため、このような制度を推進しているという。コアバリューを突き詰め、意欲的な社員が気持ちよく働ける制度を社員全員で作っている同社は「自社らしさを体現している」と言えよう。
ブランドブックであるMOKBOOK(左) TATのロゴ(右)