【第4回の趣旨】
タナベコンサルティングの今期の食品価値創造研究会は、「アフターコロナのEAT※トレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、「食のEAT視点」で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。
第4回京都開催のテーマは、「伝統と革新のバランス」。伝統企業の提供価値変化や、消費者の嗜好の変化に伴う業態変化、こだわりが生む外食価値の変化など、時代の変化に合わせたさまざまな「食の提供価値変化」と、食品業界がこれからも進化するためのポイントを学んだ。
開催日時:2024年8月27日(京都開催)
*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説
はじめに
1720年代に創業し、創業から300年を超える村山造酢。専務取締役である村山浩一氏は、11代目に当たる。
同社が本社を構える京都では、昔から酢はなくてはならない調味料として使われてきた。地理的に海が遠い京都では、食材の保存に酢が適しており、また、友禅染めの色止めにも酢が多く使われた歴史がある。
同社を代表するまろやかな味と香りが特徴の銘柄「千鳥酢」は、有名料亭、寿司店、レストランなどで使用されている。また、家庭用は全国のデパートや高級スーパーでも販売されている。今回は、村山氏より同社の取り組みや理念についてご講演いただいた。
大正時代の村山造酢本社
酢の歴史と千鳥酢の特徴
酢の歴史は古く、紀元前6000年ごろのペルシアが起源と言われている。紀元前の中国では酒・酢は高級品とされており、中国(秦)から日本の役人に酢を献上していたという記録もある。
江戸時代には鮒寿司、押し寿司が誕生し、庶民の間でも酢が多く用いられるようになった。「千鳥酢」は、京料理の特徴の1つである”素材の味をいかす”ことを念頭に、素材の後味や余韻を邪魔しないスッキリとした米酢のむれ香を抑えた風味を特徴としている。
酢の味は、原料となる酒の仕込みが重要である。千鳥酢の製造は、ロジカルな工程管理と職人技が統合することで高い品質を維持し続けている。
同社を代表する銘柄「千鳥酢」
千鳥酢の取り組み
同社は、千鳥酢を通じてさまざまな取り組みを展開している。例えば、千鳥酢の原料として、京都府南丹市のブランド米である「キヌヒカリ」を主に使用している。南丹市のふるさと納税では数百種類ある返礼品の中から、千鳥酢が上位にランクインしているなど、千鳥酢を通じて地域創生に貢献している。
同社の酢は、料亭、寿司店で広く使われているが、和食以外にも合う酢、 和食以外での酢の価値創出を目指すための取り組みとして、同社ホームページのレシピコーナーでは、フランス料理店とのコラボレシピを掲載するなど、“ライスビネガー”の利用法として新しい米酢の可能性を発信している。
同社を代表する銘柄「千鳥酢」に加えて、合わせ酢・酢味噌なども展開
酢の新たな可能性と「和醸良酢」
同社は、南丹市の八木バイオエコロジーセンターと協業し、有機性残渣を肥料化し、その肥料を用いて育てた米を酢の原料として用いるなど、循環型社会の実現に向けた取り組みを行っている。
同社が大切にしている理念に「和醸良酒(酢)」がある。「和の心は良い酒(酢)を醸し、良い酒(酢)は和の心を醸す」という意味だ。酒を発酵させて作る酢において、同社は酒作りと同じ思いを込めており、人々や土地との縁を大切に、人々や地域に恩返しをしたいという強い思いを持ち、日々新たな挑戦に取り組んでいる。
フランス料理に酢を使ったレシピを開発
