メインビジュアルの画像
研究リポート
PR/広報研究会
クロスメディア時代を生き抜くために欠かせない「PR/広報」の本質的価値と、顧客体験価値向上に成功している企業の事例を通して、最適なコミュニケーション手法を研究します。
研究リポート 2025.02.06

「近大らしさ」を追い続けるイメージ戦略 近畿大学

【第6回の趣旨】
タナベコンサルティングのPR/広報研究会では、クロスメディア時代の経営モデルに不可欠な本質的価値と最先端事例を学び、メディア・ステークホルダーを戦略的に動かして物やサービスを売る方法や、自社の魅力を最大限に発信する広報・PRのメソッドを提供する。
第6回のテーマは「報道価値を生むPRストーリーでつくる話題性」であり、近畿大学と大阪染織機械にご講演いただいた。研修会参加者は、魅力を発信し続けるコンテンツ活用とPR戦略について学びを深めた。

開催日時:2024年12月20日(大阪開催)

 

 

はじめに

 

2025年に創立100周年を迎える近畿大学は、西日本エリアに6キャンパス・全15学部49学科を持つ日本屈指の総合大学である。将来的な人口減少や新興大学の台頭など常に変化する経営環境下で、 一般入試の志願者数において11年連続で全国1位(大学通信調べ)となり、大学ランキング2025(朝日新聞出版)の学生数ランキングでは4位(3万3941人)を誇る。ここに至るまでの近畿大学の広報活動を、経営戦略本部広報室の稲葉美香氏に講演いただいた。

 

同学では、適切かつ大胆に認知度を高めるべく、さまざまなコミュニケーション手法を駆使。広報室のスタッフ以外に、学内に約170人の広報担当者を置き、好循環が生まれる情報発信(「業務としての発信」→「取り上げられる(メディア)」→「もっと知ってほしい」 → 「広めたい」 )を意識して自学の強みや良さを広める取り組みを進めている。

 


近畿大学の東大阪キャンパス

 


 

「近大らしさ」を打ち出すアウター/インナーコミュニケーション

 

6キャンパス、15学部49学科および附属病院・併設学校など、近畿大学に関する情報発信は広報室で一元化されている。ブランディングの観点から、発信内容の頻度や方法に差が生まれないように、広報体制の組織づくりから設計している。広報発信の1番の目的は「まずは知ってもらう」こと。これをベースに、大学のカラー(イメージ)や独自性を確立することで、多くの人びとに認知を広めていくという。

 

毎年1月3日に出稿している同学の新聞広告は、インパクトのあるデザインとコピーが話題となり、SNSを通じた評価や口コミの醸成につながっている。受験生や保護者を対象にした大学案内は、多くの大学が似通った内容になりがちな中、同学は雑誌社とコラボレーションして制作。「近大生の鞄の中身」「時間割」「学食メニュー」など、具体的なキャンパス生活や学生の人となりが分かる、受験生の目線に立ったコンテンツが好評だ。

 

また、インナーコミュニケーションにも注力しており、教職員に向けた社内報、保護者向け情報誌など、各ステークホルダーに向けて情報を発信している。

 


若者向けカルチャー誌『TOKYO GRAFFITI』(グラフィティ)とコラボレーションした受験生向け大学案内パンフレット『KINDAI GRAFFITI』

 

 

徹底した情報発信でメディアとのリレーションを構築

 

2023年度、同学は過去最高となる年間636本のプレスリリースを発信。「全学教職員が情報収集力と発信力を高め、近畿大学の広報員となる」という「全学的事務組織方針」を掲げ、「まずはより多くの情報を発信すること」を徹底している。約170人の教職員が各所管での情報収集や取材時の教員との仲介などの業務を行っており、広報室は研修会や講座などを実施し、この方針を後押ししている。

 

また、メディア向けに『近大コメンテーターガイドブック』を作成。教員への協力を強化するべく、メディア露出が多い教員の表彰制度として「KINDAIメディアアワード」も設立した。さらに、マスメディアとの関係性構築だけでなく、キャンパスを活用したロケ協力なども積極的に実施し、年間1000件を超える取材件数につなげている。

 

 


教員約1200名の専門分野やコメントできる内容、顔写真を掲載した冊子『近大コメンテーターガイドブック』

ブランドイメージに基づくコミュニケーション

 

同学の広報は、ただ面白おかしいだけではない。実学に基づいた全国トップクラスの研究力や、第三者機関からの評価内容を広告クリエイティブに反映していることが特長だ。日本新聞協会「新聞広告賞2023」の大賞を受賞した広告は、「上品な大学」というランキング項目においてランク外であることを逆手に取ったキャッチコピーで目を引き、「エネルギッシュな大学、チャレンジ精神がある大学」のランキングで1位であること、世の中で求められる人材像にマッチしていることを近大らしく表現した。

 

大阪らしさを打ち出した広報コミュニケーションも好評だ。「551の豚まん」のCMでおなじみのキャッチコピーを用いたオープンキャンパス広告は、社内会議でのコミュニケーションから生まれた秀逸な内容である。また、卒業式や入学式は、毎年テレビのニュースで取り上げられる春の風物詩となっている。関西圏以外の新入生もなじめるようにと、2024年の入学式で実施した「大阪人対策講座」は吉本新喜劇の人気芸人が講師を務めた。あらゆるところに大阪らしさが詰めこまれている。

 

こうした広報活動により、日経BPコンサルティング「大学ブランド・イメージ調査」(近畿編)では、2014年の8位から2024年は3位へ上昇した。また2023年度の同学の就職率は98.2%を誇る。知名度向上が就職活動を行う学生の自信にもつながっているのだろう。


ブランドイメージをベースにした、インパクトのある広告クリエイティブ

PROFILE
著者画像
稲葉 美香氏
近畿大学 経営戦略本部 広報室