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研究リポート
新しいものを生み出す組織カルチャー研究会
ビジネスモデルや組織の変革が求められる現代において、人材価値を見直し、その価値を最大限に引き上げイノベーションを起こすことは必須の経営技術です。成長発展の足掛かりとなる「新しいものを生み出す組織カルチャー」を研究します。
研究リポート 2025.02.04

社員がいきいきと働く企業文化のつくりかた あつまる

【第5回の趣旨】
新しいものを生み出す組織カルチャー研究会では、「文化」を研究対象とし、変革を起こし、持続的に成長している企業ではどのような「文化」を創り出しているのか、またはすでに「風土」となっているケースも含めて研究テーマとして扱い、相互に学び合う場としている。第5回は株式会社あつまる(東京都)に訪問。代表取締役社長の石井陽介氏に「社員がイキイキと働く企業文化のつくりかた」と題して、あつまる独自の企業文化の育み方をお話しいただいた。

開催日時:2024年10月23日(東京開催)

 

 

はじめに

 

2010年設立された株式会社あつまる。集客コンサルティング、新卒採用コンサルティングの2つのサービスを展開している。広告宣伝費・採用費の費用対効果を最大化することで、顧客の中期経営計画の実現に貢献している。

 

同社は理念経営に力を入れており、新卒採用においても理念とのマッチング度合いを重視。妥協しない採用により、優秀人材を多く獲得している。また、入社後は「個人ビジョン経営」のメソッドを用いて、社員一人一人が自分の人生を自分の意思で決めて自分の足で歩む日々を送り、その結果として会社が成長発展するという仕組みを確立し「会社の経営計画=全従業員のビジョンの集合体」を実現している。

 

その結果、2010年から2022年まで付加価値成長率平均121%を実現。また、小規模部門(25~99名)の日本における「働きがいのある会社」ランキングで国内で1位、アジアランキングにおいても日本企業で最上位の第9位にランクイン。業績と働きがいの両立を実現している。

 


講演を行う石井氏

 


 

絶対的な基準は企業理念(=社長の哲学)

 

代表取締役社長の石井氏は2005年にWEB制作会社を起業したものの、売上至上主義に偏りすぎ、社員一人一人の心に向き合わない経営スタイルが原因で社長を辞任することになってしまった。その経緯を踏まえ、経営を一から学ぶため、京セラおよび現KDDIの創業者であり、日本航空再建にも手腕を発揮した稲盛和夫氏の「人生哲学」と「経営哲学」を学ぶ自主勉強会「盛和塾」に入塾。株式会社ラック元代表取締役社長、全日本冠婚葬祭互助協会前会長である柴山文夫氏に弟子入りした。稲盛和夫氏・柴山氏より、社長の最も重要な役割は「全従業員の物心両面の幸福を追求すること」であることを学び、「幸福」とは、利他を与えたり、いただいたりし、感謝しあえる仲間を増やし続けることだと石井氏は気付く。

 

そこから、同社の企業理念「全従業員の物心両面の幸福を追求するとともに、出逢った人たちに無限の可能性を伝え続ける集団である。」を策定し、企業理念を軸に価値観を共有し、同じビジョンを目指す仲間を集めている。

 

同社の採用の特徴の1つとして、理念へのマッチングを重要視し、採用基準を妥協しないことが挙げられる。新卒採用では約5000名の母集団を形成し、100人に1人しか内定を出さない採用を行なっている。理念やビジョンは会社の判断軸であり、借り物の言葉ではなく、熱量を持って伝えるべきだと石井氏は考えている。


フィロソフィBOOKは単に理念やビジョンが示されているのではなく、その考えに至るまでのプロセスや石井氏の経験が記載されている(出所:株式会社あつまるHPより引用)

 

会社と個人をつなぐ「個人ビジョン経営」

 

同社の事業推進力、働きがいの向上につながっているメソッドが「個人ビジョン経営」である。会社の経営計画として、社長をはじめとする役員陣が長期計画、中期経営計画、年度方針資料を策定する。ポイントは、一方的な策定に終わらないこと。全従業員は一人一人が個人ビジョンを「ビジョンシート」にまとめる(人生ビジョン・中期ビジョン・短期ビジョン)。この双方のビジョンを個人面談(社長と全社員)にて擦り合わせ、個人のビジョンを達成するために会社の経営計画のどこを担うのかをアクションプラン化(6カ月)。決定した内容を即スケジュール帳に落とし込み、上長はPDCAサイクルを高速化させることに注力する。

 

これにより、「会社の経営計画=全従業員のビジョンの集合体」となるので「やらされ仕事」でなく、自分の未来を自分で作り、実現していく状態となる。この策定過程も理念経営の一部であり、共有・共感された理念・ビジョンが推進力を持った計画になるのである。また、アクションプランの担当者が空白である箇所はリファラル採用を行う。幹部の重要な仕事は採用活動であると石井氏は話す。

 


実際の社員のビジョン例。個人のビジョンの集合体と会社の経営計画とが連動しているため、必然的に働きがいが向上する(出所:株式会社あつまるHPより引用)
 

理念を共有し、PDCAを高速化させる全社MTG

 

「個人ビジョン経営」の肝はPDCAサイクルの高速化にある。同社は半期に一度決起集会を、毎月2日間全社MTGを全社員参加で開催している。決起集会は役員挨拶や活動報告、表彰式などを行い、全社MTGでは考え方・熱意・情報の共有や、事業の最新ノウハウを共有している。稲盛和夫氏による方程式に「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」があるが、石井氏はこのうち熱意が不足しがちだと捉えている。そのため、この「熱意」を共有することに注力している。昨今、あらゆる会議体などがWEBによる開催となっている中、同社は必ずリアルで行う。石井氏曰く、熱意をオンラインで育むことは難しく、必ず円陣を組む場が必要であると語る。重要なのはアクションプランをやり切れるかで、上記のほかにも業績検討会、コーチング、幹部会、週次MTG、チームMTGなどを実施している。

 

この中で理念を共通軸としたコミュニケーションが図られ、結果個人の育成にもつながっていく。理念を「浸透させる」という上から目線でなく、自然と会社と社員の考え方が一致する「価値観を磨く」「共有する」という考え方を重視している。

 


ビジョンシートの例(出所:株式会社あつまるHPより引用)

PROFILE
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石井陽介 氏
株式会社あつまる 代表取締役社長