【第5回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマに、さまざまな分野で秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第5回はテーマを「3つの新(新技術・ 新事業・ 新市場)によるフロンティア戦略」とし、サブテーマに下記3点をおいて、ゲスト企業の視察を実施した。
1.マーケットリーダーの描く新たな市場創造
2.顧客価値最大化のためのコアコンピタンス(技術・開発)
3.「3つの新」を支える組織・経営システム・風土づくり
ゲスト講師であるスギノマシン様、ヤヨイ化学工業様の講話・現場視察から、「3つの新」を起点に挑戦を続け、技術オリエンテッド・ニッチリーダーとして社会に貢献するビジネスの要諦を学んだ。
開催日時:2024年10月22日(富山開催)
はじめに
1936年に国内初の水圧・空圧チューブクリーナーを開発し、杉野クリーナー製作所として創業したスギノマシン。洗浄の効率化やポンプの高圧化に挑戦し続け、「お客さまと社会のため」の技術を突き詰めてきた。
現在、製造拠点は国内3拠点、海外1拠点(中国・常熟)、営業拠点は国内9拠点、海外9カ国、さらに、40カ国以上の代理店ネットワークを通じて全世界の顧客に製品を届けるなど、ウォータージェット技術での切断・洗浄において世界シェアトップ企業となっている。
スギノマシンのグローバルネットワーク
スギノマシンが掲げるビジョン
同社は、経営戦略として「グローカルニッチリーダー」を掲げており、無借金経営、常時5000社以上との取引を行うなど、高付加価値経営を実践している。売上比率は50%を海外が占めており、生産額の90%は国内で、そのうち80%は富山県内で生産されている。グローバルネットワークとしては、グループ会社9カ国、そして40カ国以上の代理店ネットワークを持っている。
地方(ローカル)で造り込み、世界(グローバル)で闘う。ニッチな市場に特化し、トップを取っていくというグローカルニッチリーダー戦略の特徴は、世界中に小さく点在する市場、多様な顧客と取引しており、あえて選択と集中をしていないことにある。効率的でない部分もあるが、顧客との関係性は強固なものとなり、顧客にとって本当に必要なものを提供している。
営業担当者が顧客のニーズを持ち帰り、その課題一つ一つに対して同社のシーズを組み合わせ、同社にしかできないソリューションを提供し、それによって適正価格を維持している。これを実現するためには、技術力の維持が必須の条件となる。
スギノマシンのフィールド
進化と深化を続けるスギノマシンの「超技術」を産み出したDNA
同社は、商品開発に対して「世の中の1.5歩先を行く技術、ニーズの0.5歩先を行く商品」を念頭に、「切る・洗う・砕く・削る・磨く・解す」の6つの「超技術」を維持・発展させている。
この超技術を生み出す背景には、創業者の「自ら考え、自ら造り、自ら販売・サービスする」という考えが根底にある。同社はこの考え方を指針に、グローカルニッチリーダーとしての実績を築いてきた。
また、この考えを実践し、技術志向をさらに磨くため、開発コンテストの開催や多様なニーズとシーズを管理するためのシステム導入、自律人材育成のためのジュニアボードの実施などさまざまな施策に取り組んでいる。
スギノマシンの6つの「超技術」
新たな経営戦略の導入
同社は企業規模の拡大による膨大なデータの資産化、利活用、社内連携が急務となり、データドリブン経営を進めている。販売においては、SFAを導入し、セールスマーケティング、インサイドセールスの連携によってデータに基づいた営業アプローチの深化・精緻化を実現。製造においては、図面管理システムの導入による図面データの資産化、ロボット・生産管理ソフトの導入など、自社設備・製品、情報の連携を行っている。
これらの取り組みにより、グローバル規模で顧客の生きた声を拾い上げて、経験則ではなくデータ起点の判断が可能になり、さらなるグローカルニッチリーダーの深化を実現している。
また、デザインを活用して顧客の操作性向上や世界中の社員・顧客に方針が浸透するようアイコンを定めるなど「デザイン経営」を導入し、自社商品のユーザーフレンドリー化、メッセージングによる行動強化、方向性の統一を行っている。
ロゴや商品デザインを刷新によるデザイン活用