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研究リポート
ホールディングス・グループ経営モデル研究会
6つのホールディング経営タイプをベースに、新たなグループ企業を研究します。自社がどのようなホールディングスモデルとして進化するのか、共に考えましょう。
研究リポート 2025.01.09

ホールディングス化に込めた想いと今後の展望 セトラスホールディングス

【第6回の趣旨】
ホールディングス・グループ経営モデル研究会では、ホールディングス・グループ経営における狙いや経験を講義やディスカッションの機会を通じて、自社のホールディングス・グループ経営に反映するヒントを提供する。ノウハウの提供に留まらず、実体験を交えたグループ経営の課題や、経営層から現場の従業員に対する対応など、成功モデルを構築した企業を紹介。ホールディングス・グループ経営システム構築支援の実績を数多く持つタナベコンサルティングのコンサルタントによるメソッド講義や、先端事例のご紹介、ほか特別ゲストによる資本戦略が多様化する中でのコオウンド経営について、事例やグループでの取り組みを交えた講演をリアルタイムで配信した。

開催日時:2024年7月2日(東京開催)

 

 

はじめに

 

セトラスホールディングスは、香川県の高松で塩田から化学品や医薬品の原料となるマグネシウムを製造販売していた当時の工場長が、MBO的な手法で創業した協和化学工業所が出発点となり、2022年10月1日に組織再編して誕生している。

 

現在、胃薬の大半で同社の原料が使用されている。また、1984年の世田谷の火事で電話が使えない事故をきっかけに塩ビ代替品として同社製品が注目を浴び、アメリカで採用され世界的に広まった経緯を持つ。

 

これは、CSR基本理念である「独自の技術による、独自の製品開発」というオリジナリティを追求した結果である。世の中にない商品開発を続ける同社売上高はグループ連結で400億円を超える。同社は4代目以降、非同族経営へ転換。6代目の木下社長はホールディングスを組成し、4つのグループ会社を包括する体制を取っている。

 

セトラスホールディングスのグループ経営体制図

 


 

「社員のマインドを変えること」

 

木下氏の入社時は人材教育などの社内体制に対する大きな課題があり、立て直しを図ることを決意した。しかし、当時は様々な改善策を提案するも現行のスタイルを変えることができず、社風はそのままであった。この状況を打開すべく「ホールディングス化」を目指すこととなる。

 

当時、既存の体制では化学品と医薬品の2つの事業戦略の整合性が取りにくいことや、世界的に知名度の高い商品を持ちつつも、実際の製造企業は知名度がないといったコーポレートブランディングの課題も存在した。

 

しかし、木下社長の一番の目的は「社員のマインドを変えること」であり、その最良の方法が「ホールディングス化」であった。ホールディングス化のためにプロジェクトを立ち上げ、1年半という時間をかけながら社内改革として取り組んだ。

 

ホールディング経営プロジェクトの推進

 

 

さらなるグローバル展開を実現させるためのグループリブランディング

 

セトラスホールディングスの名前は、創業の源である「瀬戸内海」とギリシャ神話の地球を支える神である「アトラス」を組み合わせた造語である。瀬戸内海から世界へ、また世界から海を越えて日本へ優秀な技術者や人を往来させるストーリーを持つ。「地方であっても丸の内の企業ような仕事のやりがいを感じられる会社を創りたい」という想いも社名に込めている。

 

アウターブランディングを強化すべく広報室を創設し、地元のTV番組や新聞媒体などへ社長を筆頭に積極的に情報を発信した。その成果、全国からの採用希望者が増加。しかし何より、社員が本社へ足を運び、その働き方を目にすることで会社の変化を体感し、意識改革が進んだことが一番の成果である。

 

セトラスホールディングスの名前は、創業の源である「瀬戸内海」とギリシャ神話の地球を支える神である「アトラス」を組み合わせた造語

 

 

グループ戦略「SEBONEプラン」

 

50年先を見据えた経営を実践していく上で、事業の柱を1つ1つ増やしていく必要がある。そのビジョンを示したものが「SEBONEプラン」であり、既存事業だけでなく、新規事業の拡大によりグループ年商700億円を目指す。

 

そのような中、木下氏は農業人口減少という社会問題に向き合い、かつ、人間が存在する限り存続する農業事業に進出したいと考えた。日本の農業の特徴として農地が狭いことが挙げられ、農家を元気にするためには狭小農地における収量の向上と同時に高付加価値作物の栽培が求められる。そこでまずは夏イチゴの品種改良を手掛け、販売を開始した。

 

その後、種苗メーカーと資本提携を結び、高付加価値作物の開発を進めている。

 

同社はあくまで農家にはならず、農家の収入を増やし、生活を安定させ若者が集まる農業を支援できる事業への成長を目指す。またグループの成長エンジンである研究開発機能の拠点となるセトラスラボというバーチャル研究開発組織を組成した。課題解決型にとどまらず価値提案型の新規事業も積極的に展開している。

 

セトラスホールディングスの本社、社内の様子

PROFILE
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木下 幸治 氏
セトラスホールディングス株式会社 代表取締役社長