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研究リポート
PR/広報研究会
クロスメディア時代を生き抜くために欠かせない「PR/広報」の本質的価値と、顧客体験価値向上に成功している企業の事例を通して、最適なコミュニケーション手法を研究します。
研究リポート 2024.11.27

新しい魅力を生み出し発信し続けるコンテンツ活用とPR 戦略 京都鉄道博物館

第5回の趣旨
広報/PR研究会では、クロスメディア時代の経営モデルに不可欠な本質的価値と最先端事例を学び、メディア・ステークホルダーを戦略的に動かして物やサービスを売る方法や、自社の魅力を最大限に発信する広報・PRのメソッドを提供する。第5回のテーマは「ブランドのファンを生み出し継続的なコミュニケーションでLTVを向上させるファンマーケティングの手法について」。ゲスト2社(西日本旅客鉄道株式会社様、亀屋良長株式会社様)による「PR/広報」についての講演を配信。魅力を発信し続けるコンテンツ活用とPR戦略について深く考察した。
2024年10月31日(京都開催)

 

はじめに

京都鉄道博物館は、2016年4月に開館した「鉄道」に関する歴史、技術、文化を総合的に紹介する博物館である。所有者はJR西日本(西日本旅客鉄道)で、運営は交通文化振興財団が行っている。

 

館内では、鉄道の歴史、技術、未来をテーマにした展示が充実している。展示車両は54両に及び、本物の蒸気機関車が牽引する客車に乗ることができる「SLスチーム号」の運行や運転シミュレーター、日本最大級の鉄道模型ジオラマなど、インタラクティブな展示も多数あり、訪問者は鉄道の運転や仕組みを体験しながら学ぶことができるため、鉄道ファンだけでなく、家族連れや観光客にも人気のスポットとなっている。

 

様々な企画やイベントの開催とその発信により、ブランドのファンを生み出し継続的なコミュニケーションでLTVを向上させるファンマーケティングを行っている。

 

本物の蒸気機関車が牽引する客車に乗ることができる「SLスチーム号」の運行は見どころの一つ。
本物の蒸気機関車が牽引する客車に乗ることができる「SLスチーム号」の運行は見どころの一つ。

 

常に新しいイベントを開催し続け、ファンを絶やさないコンテンツコラボ活用術

 

年間約68万人(2023年度)に上る来場者の属性はファミリー層と鉄道コアファンが大部分を占めており、それぞれに訴求できるイベントを積極的に行っている。ファミリー層(特に子ども)への訴求としては、憧れを育むために「SLスチーム号」の運行や「お仕事体験」を実施。一方、コアファンへの訴求としては、引込線を利用した様々な車両の展示を行う車両工場が他にはない企画として好評を得ている。

 

さらに、集客イベントや新規顧客獲得イベントとして、様々なコラボイベントも開催している。現在は機関車トーマスやプラレール、銀河鉄道999など鉄道に関連するものに絞ってコラボを実施しており、多い時には来場者数が3割増えることもあるという。ターゲットを明確にした上で、来場者の気持ちに寄り添う様々な施策でファンの心をつかみ、さらなるファンを生み出している。

 

アイデア出しブレストを行い、それを積極的に形にすることを意識しており、それによりさらなるアイデアが生まれお客様満足につながっているという。新しいものを積極的に取り入れるが、従前のものを端から否定しないという運営手法も特徴だ。

 

「お仕事体験」の実施は、お子様にとっては鉄道ファン化や憧れとなり、社員にとっては仕事の誇りとなるためCSとESの両立になっているという。
「お仕事体験」の実施は、お子様にとっては鉄道ファン化や憧れとなり、社員にとっては仕事の誇りとなるためCSとESの両立になっているという。

地域の活性化につなげている地域異業種との協業

 

京都鉄道博物館のコンセプトには、「博物館の取り組みを通じて梅小路エリアの賑わいを創出し、京都の価値向上に貢献する」ことが含まれている。また、京都市としても嵐山に人が集中する中で、梅小路の賑わいを生み出したいという思いがあった。そこで、梅小路近隣のホテルや水族館と連携し、月に一度のイベント開催を進めている。

さらに、「地域と歩む鉄道文化拠点」として、ライバルではなく仲間という考えのもと、イオンモール京都と梅小路エリアの相互流動創出の試行や、芸術大学生による巡回プチ音楽会の開催なども行っている。梅小路エリアの賑わいを生み出すための地域ブランディングを地域の異業種との協業で主体的に進めることで、同館のブランディングや集客にもつながっている。

 

コラボなど色々なイベントを企画。SNSで発信、拡散してもらえるイベントになるよう意識しているという。
コラボなど色々なイベントを企画。SNSで発信、拡散してもらえるイベントになるよう意識しているという。

魅力を世の中に発信し続けるPR戦略

 

コロナ禍で広告費が削減される中で活路を見出したものがSNSでの発信だった。「お客様が楽しんでいる様子が一番のPRになる」と感じ、積極的にお客様の写真を発信することでファン獲得につながっている。

 

今後もSNSによるPR戦略はさらに強化していく予定で、Xは全般的な告知、インスタグラムは主に若年母親層向け、Facebookは鉄道ファン向け、LINEはリピーターづくりと、媒体ごとにターゲット設定を行い情報発信を行っていくという。

 

ターゲットに対し継続的にコミュニケーションを図っていくファンマーケティングを行うことで、さらなるファンを生み出していく狙いだ。

 

さらに今後はターゲットごとに訴求できるビジュアル、コピーを作成し発信することで効果的なアウターブランディングも行っていく予定だという。

 

ターゲットごとに訴求できるビジュアル、コピーを作成し発信するアウターブランディングも行っていく。
ターゲットごとに訴求できるビジュアル、コピーを作成し発信するアウターブランディングも行っていく。

PROFILE
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講師:青木 豊太 氏
西日本旅客鉄道株式会社
コーポレートコミュニケーション部
鉄道文化推進室