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研究リポート
アグリサポート研究会
アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2024.11.15

秋田県農業の持続的発展と最新技術を駆使した課題解決 秋田県立大学アグリイノベーション教育研究センター

第5回の趣旨
タナベコンサルティングのアグリサポート研究会(第8期)は、「アグリ分野でのサステナビリティ(持続的成長)モデルを追求する」をコンセプトに、先端技術の活用や新しいビジネスモデルの構築について研究し、成功のポイントを学んでいる。
第5回は、秋田県の県央エリアに位置する大潟村で視察を行った。秋田県は、特産品であるコメの生産量で全国3位を誇り、農業全体の半数以上を稲作が占める一方、農業従事者の高齢化、生産性の課題から後継者不足も深刻である。
今回は、秋田県立大学アグリイノベーション教育研究センター(AIC)が取り組む、秋田県の農業課題解決のためのスマート農業と農業従事者の育成について、また、大潟村あきたこまち生産者協会からは、新市場開拓に向けたマーケットインの商品戦略を学んだ。
2024年5月27日~28日(秋田開催)

 

 

秋田県立大学アグリイノベーション教育研究センター
センター長
 西村 洋氏

 

 

はじめに

AICは、秋田県立大学生物資源科学部の付属施設を改編し、2021年に設置された組織である。労働力不足・後継者不足という深刻な課題を、スマート農業の普及により解決し、農業だけでなく、製造業・情報通信業など関連産業の振興を目指しながら、秋田県立大学が持つ農学系・理工学系の知見を総動員して教育・研究を行う拠点である。

AICの主な活動は、次の通りである。

(1)高度な教育・農業人材の育成
学部生・大学院生の講義・実験・実習による教育、社会人向けスマート農業指導士教育

(2)分野を超えた連携研究、先端技術の開発・実証
農場を活用した学内研究および開発・実証実施、共同研究の推進・技術の普及促進

(3)先端技術の展示、地域貢献
一般県民・児童等の見学受入れ、高校生対象の体験街区集会、出前講座実施

 

 


AICの面積。東京ドームなら40個分、サッカー場なら266面分のサイズ

 

 

 

まなびのポイント 1:Smart農業をめぐる背景

日本の農業従事者の平均年齢は65歳以上と高齢化が進んでいる。他国と比較すると、65歳以上の農業従事者の割合は日本が69.7%と圧倒的に多く、次いで米国33.9%、英国19.0%である。一方、フランス・ドイツ・オランダは10%未満であり、20~50歳代の割合が多い。

日本では、75歳を機にした農業従事者の大量リタイアが懸念されている。このリタイアを支える若手層は大幅に不足しており、このまま高齢化が進めば日本の生産量を維持できなくなる。また、耕作技術やノウハウも消失してしまう恐れがある。

高齢化と労働力の減少によって「土地持ち・非農家」への移行が進み、少数の担い手に大量の農地が供給される地域では、農家1戸当たりの経営面積が拡大している。農業経営の規模が大きければ拡大の余裕もあるが、すでに限界点に達している農家は3割ほどある。

規模を拡大しても分散錯圃(一農家の経営農地があちこちに分散している実態)は改善されず、機械化を進めてもメリットが出にくいため、生産性の向上が課題となっている。現在も耕作放棄農地は拡大し、1980年と比較すると約4倍となっている。

 

 



GPS利用トラクター、自動草刈り機などで作業負担を軽減

まなびのポイント 2:スマート農業の技術と伝承

AICは、作業の自動化と技術承継のための情報共有とデータ活用を、IoT技術を駆使して実施。秋田県立大学の学部・大学院生の農場を活用した教育や、社会人教育で「スマート農業指導士」を輩出するなど、高度な教育で農業人材を育成している。

(1)作業の自動化
トラクター・田植え機・ドローン・搾乳のロボット化で省力化を図る。ロボット農機のうち、農業用ドローンの普及が一番進んでいる。最も難しいのは車両型の直進作業で、熟練者でも難しい。

(2)状況共有の簡素化
圃場の電子地図情報や農業機械・作業者の位置情報と連動した営農管理支援アプリによって、作業情報の共有と作業の見える化を行い、営農管理の効率化を図る。

(3)データの活用
①営農管理支援アプリで得た情報を分析し、作業手順の見直しや来年の施肥設計に役立てる。
②ドローンによる生育情報、気象・土壌データの取得。水田の水の管理は毎日しなければならないが、自動化により効率的に管理できる。また畜産分野では、ウシの発情、分娩のタイミング管理できるようになり、出産待機の効率化を実現した。

(4)スマート農業実証事業の効果
①ドローン農薬散布:作業時間は平均78%短縮。噴水時間の短縮。
②自動水管理システム:作業時間は平均71%短縮。深水管理の実現。
③直進アシスト田植機:作業時間は平均11%短縮。若手の新規雇用の創出

 

 


ウシの首輪にはセンサーがついており、常にデータで管理されている

まなびのポイント 3:今後の展望

AICは今後の展望として次の4つを掲げ、秋田県の持続可能な農業に貢献していく。

①スマート農業技術普及および定着を促進し、より多くのスマート農業指導士を輩出
②秋田県内の製造業や金融機関などの、秋田県農業への参画を促進し、コンソーシアムによる運営を推進
③スマート農業技術の情報提供や、高校生の農業への関心を喚起する先端技術展示・地域貢献
④「交付金研究プロジェクト」による、秋田県版スマート農業技術の開発・普及

 


ドローンを使った農薬散布の説明

 


スマートグラスや機材を用いてウシの分娩を管理する