タナベコンサルティングのライフスタイルビジネス研究会(第4期)は、「ライフスタイルカンパニー100社の創造―10年後のビジネスモデルをデザインしよう」をコンセプトとして掲げている。①コングロマリットモデル(単一から複数ドメインへの複合化・多角化するモデル)、②マルチソリューションモデル(複数の技術や情報により課題解決するモデル)、③コネクテッドモデル(自社・顧客・社会をつなぎ共創し続けるモデル)の3つを研究する中で、第6回は「自社ビジネスの進化」をテーマにモデル企業をゲスト講師として招き、講話いただいた。
開催日時:2024年7月26日(高知開催)
※掲載写真は全て和建設の講演資料より抜粋
1957年に高知県で創業した和建設は、2024年現在、分譲マンション、戸建て住宅、土地活用、高齢者向け住宅、公共事業、ライフスタイル&カルチャー事業を、高知と岡山の2拠点で展開。「人と人、気持ちと気持ちのしあわせづくり」を企業理念とし、地域に根差した経営を推進している。
分譲マンション事業では、「たったひとつ、をつくっていく」をコンセプトとし、同じ1棟の中でも住戸ごとに間取りやデザインを変えられるオーダーメードシステム「ビ・ウェル」を自社ブランドとして展開し、2022年にグッドデザイン賞を受賞した。また、「長期ビジョン2030」として、「わっと驚く世界へ」「住まいづくり」を通して、幸せと感動を創造する「暮らしづくり」を掲げている。
研究会参加者は、長期ビジョンの実現に向けてあらゆる「境界」を越えていくことを重点テーマした同社の取り組みや協業事例の講話を聞き、中堅・中小企業における新たな価値創造モデルとして、「アライアンス戦略」が重要な経営技術であることを学んだ。
アウトドアを取り入れたモデルハウス
同社はアウトドアブランド「スノーピーク」との連携を推進しており、アーバンアウトドアショップ「WAKKA(ワッカ)」(高知市)を通じて、自宅で過ごす日常でも自然を感じる、心地良い時間を楽しめる家づくりを提案している。また、この連携をきっかけに、他エリアで展開する同業者の分譲マンションの外構監修も請け負った。
顧客に価値を提供する上で、自社のリソースだけではなく他社のリソースも活用して共創し、その価値を最大化することは、中堅・中小企業にとって競争力を高める重要なキーワードとなる。
社内研修にアウトドアを取り入れ、自社の商品・サービスを体感
同社は2024年1月、高知県・芸西村で宿泊施設「NAMI TERRACE GEISEI(ナミテラス芸西)」を立ち上げた。新規事業のビジネスモデル設計において学ぶべきポイントは3点ある。
1点目は、自社のケイパビリティー生かした競争力の高い提供価値設計である。同社は戸建住宅を設計から施工までの機能を保有しており、自社の強みを最大限に発揮している。
2点目は、資金調達である。自社の経営資源だけでは、新規事業への投資に一定の時間と条件が必要となり、すぐには開発に着手しにくい。だが、同社はふるさと納税を活用して資金調達を行い、投資総額の一部を賄うことに成功している。従来から自治体と接点を持って事業を行っている信頼を生かした取り組みである。
3点目は、アライアンスだ。他社にない差別化された価値を創造する場合、自社の固有技術だけでは足りないことが多い。同社は、建設用3DプリンターメーカーのPolyuse(ポリウス)と共同で3Dプリンターを用いてサウナ棟を建設したほか、他社とのアライアンスで新たな工法を採用し、工期やコストを圧縮している。
新たな価値を創造するノウハウとして、ベンチャー企業も含む他社とネットワークを形成する取り組みは、中堅・中小企業の新事業開発に重要な経営技術と言える。
「NAMI TERRACE GEISEI(ナミテラス芸西)」の宿泊施設やサウナ棟内
和建設は、長期ビジョン2030に掲げた「住まいづくり」と「暮らしづくり」による「しあわせと感動の創造の実現」に向け、事業領域や使命を再定義している。外部環境の変化により求められる自社変革に対する意欲の高さが、同社の最大のケイパビリティーだ。
新たな取り組みにおいて同社が大切にしているのは、地域連携である。高知県芸西村での宿泊事業だけでなく、同県の仁淀川町産の木材の活用事業、すのこの全国シェアナンバーワン企業・池川木材工業との協業なども行っている。
また、分譲マンションの1階テナントを活用したレンタルスペースやスタートアップを推進する大学との協業のほか、新規事業のトラベル事業では「まなびツアー」を行い、地域と子どもをつなぐ架け橋となっている。
既存事業である分譲マンションのテナントを活用したレンタルスペース「Kanau(カナウ)」のほか、コワーキングスペースや映画館など、街に新たな価値を創造する取り組みを展開