メインビジュアルの画像
研究リポート
新しいものを生み出す組織カルチャー研究会
ビジネスモデルや組織の変革が求められる現代において、人材価値を見直し、その価値を最大限に引き上げイノベーションを起こすことは必須の経営技術です。成長発展の足掛かりとなる「新しいものを生み出す組織カルチャー」を研究します。
研究リポート 2024.10.16

「なんでもやる」、DMMの組織変革に向けた取り組み DMM.com

【第4回の趣旨】
新しいものを生み出す組織カルチャー研究会では、「文化」を研究対象とし、変革を起こし、持続的に成長している企業ではどのような「文化」を創り出しているのか、またはすでに「風土」となっているケースも含めて研究テーマとして扱い、相互に学び合う場としている。
第4回は、合同会社DMM.comを訪問。同社は60以上の事業展開を成功させており、その背景には年齢・職種・国籍など、さまざまなバックグラウンドを持つ5000名以上の多様な人材の活躍を支援する、自由闊達なバックオフィスの存在があった。
今回は、「日本一の人事部」を目指して再出発を果たした人事部の取り組みについてご講演いただき、パネルディスカッションやオフィス視察を通じて、挑戦を支える組織風土についての学びを深めた。

開催日時:2024年8月22日(東京開催)

合同会社DMM.com 組織管理本部 人事部
HROffice Manager 杉山 弘明 氏(右)
組織管理本部 人事部 事業部人事
Manager 佐伯 彩果 氏(中央)
組織管理本部 人事部 事業部人事
Manager 下坂 信雅 氏(左)

 

 

はじめに

 

合同会社DMM.comは、1988年のビデオ通販・動画配信事業の立ち上げを皮切りに、現在では16の領域で60以上の事業を手掛けている。事業領域の拡大は同社の生存戦略であり、未来を見据えた数多くの挑戦が多様な可能性を生み出し、その中から確実に成功を掴むことで成長を続けてきた。同社のコーポレートメッセージである「誰もが見たくなる未来」のため、変化を恐れずひたむきに挑戦し続ける姿勢は組織風土として広く浸透しており、次の5つから構成される「DMM.ESSENCE」として言語化されている。

 

⑴本気の失敗を肯定する。
⑵テクノロジーとともに。
⑶誠実であれ。
⑷ちゃんと稼ぐこと。
⑸好奇心を忘れない。

 


合同会社DMM.comのコーポレートメッセージ

 

 


 

まなびのポイント1:挑戦を支える人事部の再出発

 

同社の事業は多岐にわたるため、これまで人事部はバックオフィスとして事業部・個別最適の人事支援を行ってきた。しかし、事業の立ち上げや拡大に対してスピードを求めるあまり、組織の膨張やバックオフィスの負荷増大が課題として挙がっていた。

 

そのため同社は、人事部としてのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を策定。「日本一の人事部にする」を目標に掲げて、組織体制も機能別の組織構造から事業部人事制へと転換した。また、行動基準を策定して人事評価に組み込むことで、常に「この行動は日本一か?」と問いかけ、質と成果を求めていく環境を整備し、共通の指針を設けることに成功している。こうして、事業の進化を人事で支える「日本一変化に強いバックオフィス」としての再出発を果たしたのである。

 


合同会社DMM.comの事業領域

 

 

まなびのポイント2:事業部人事の介在価値

 

同社は、全社的なMVVを持っておらず、組織・事業ごとに文化形成を行っている。そのため、新規事業創出ではボードメンバーの一体感不足、既存事業の組織統合では組織の変化に対して意識の変革が起こらないなどの課題が生まれていた。だが、そこに事業部人事の介在価値がある。

 

社内事情を横断的に把握し、多方面のステークホルダーに詳しい立場を活用して、異なるバックグラウンドを持つ人材・組織の架け橋となり、新たな共同体となるための手助けを行っている。

 

文化の統合なくして、事業・組織の成長はあり得ない。「組織開発に着手してこそ人件費の有効活用が可能となる」という考えのもと、それぞれの価値観・思考様式に対する理解増進の場を人事部主導で設けて業績向上に貢献している。また、事業部人事が主体となって、事業を支えるバックオフィス部門の懇親会を設けている。単なる食事会ではなく、「事業部〇×(マルバツ)クイズ」などのレクリエーションで事業理解を深めるなどの工夫を施している。

 


オフィスにはDMM英会話のマスコットキャラクター「オーレン」が設置(左)、オフィス内にあるカフェスペースでは、紅茶やコーヒーなどのドリンクを提供(右)

 

 

まなびのポイント3:データを活用した組織開発

 

これまで同社では、ベンチャー気質であるために短期的な人事戦略で、人材の活用も勘や経験に基づいて行われていた。この課題を解決するためにデータを活用し、状況を可視化することで対策を行っている。

 

例えば、サーベイ活用による組織のコンディション把握や、仮説に基づいた攻めの人事支援などだ。価値観や雰囲気に違和感を持つ人材や、能力を最大限に発揮できていない人材などに対して人事異動・調整を行い、突然の体調不良や退職の防止に成功した。

 

人事異動に関する取り組みの1つとして、社内公募制が挙げられる。不足している役割に対して社内で求人票を出し、希望者と募集元の双方に合意がある場合は必ず異動できるという制度だ。現職の上司には、原則拒否権がないことが運用に成功している秘訣である。

 

また、現状全社的な共通指標がないことから、スキル・コンピテンシー・人材ポートフォリオの可視化に挑戦し、人材の適所適材と人材開発の課題解決を目指している。合同会社DMM.comにとって、まだまだ検討すべき課題は多いものの、新卒社員の増加・定着とマネジメント力の強化に向けて挑戦を続けている。

 


役員室はコミュニケーションが取りやすいように壁が透明になっている(左)、エントランスから会議室へはジャングルをイメージした通路が続いており、壁面には動物が映し出されている(中央)、またエントランスにはデジタルアートの滝が映し出されている。同じ映像にならないようプログラムされている(右)