【第4回の趣旨】
企業価値を高める戦略CFO研究会第4回テーマは「M&Aによる企業価値向上」。M&A戦略への投資は企業価値向上に向けた重要課題であり、「攻めの戦略」として、人材投資・DX投資・設備投資に次ぐ重要事項という認識が広まっている。そのような現状を踏まえ戦略立案からPMIまでの全体像、M&Aを実行するまでの各過程におけるポイントをいくつかの業種の事例を踏まえて学んだ。M&A実施後、早期にシナジーを創出するため、戦略CFOは経営者のビジネスパートナーとして企業価値を高めることが役割である。
開催日時:2024年8月21日(東京開催)
出所:ニコン企業ホームページより
代表取締役 兼 社長執行役員 COO、 CFO、 CRO、サステナビリティ戦略部ご担当 德成 旨亮 氏
はじめに
ニコン代表取締役 兼 社長執行役員である德成旨亮氏を迎え、投資家が株式会社に求めていることについて、歴史的事例や同氏の米国市場での体験などを交えながらご講義いただいた。欧米のCFOの役割や、日本での財務担当としてのCFOに対するギャップ、株主・投資家が求めていること、そしてPBR引き上げには株主へ成長性を訴えるといった、具体的な対策とともに、財務だけではないCFOとしての視点について参加者は学びを深めることができた。
まなびのポイント1:「CFO」と「財務経理担当役員」
日本ではCEO(最高経営責任者)、CFO (最高財務責任者) 、COO(最高執行責任者)など、役職が乱立している。本来は「C-Suite(Cクラス)型経営体制」としてCEO・COO・CFOが3名体制で迅速に意思決定をする経営を意味するための役職である。
日本の「合議型経営体制」の下では、会社の各機能が細分化されているため、社長を頂点とする役員陣によるコンセンサス経営が主流だ。そのため、CFOには本来の“共同経営者”の一人としての役割ではなく、“細分化された機能の責任者の一人”として位置付けられがちである。欧米におけるCFOの役割は、「財務経理」に留まらず「戦略企画」や「リスク管理」など役割が多岐にわたる。一方で、日本では財務管理以外の話は、別の役員が担うというギャップが生じている。
まなびのポイント2:“105年で最大の赤字”から成長へ
「ニコン オワコン」と呼ばれるほど、かつて同社の業績が悪くなった時期がある。主力のデジタルカメラ販売がピーク時の約20分の1にまで落ち込む中、社長に就任した徳成氏。真っ先に行ったことは、ここまで成長を遂げた同社の100年史を読み解くことだった。製品中心の視点ではなく、コア技術の側面から見てみると、「光」「精密測定」の技術がニコンが祖業より培ってきたコア技術であり、強みであると分かった。
現在ではこれらの技術を社会課題解決に向けて活用しており、社会貢献に終わらずに収益性向上にまでつなげ、サスティナブル経営を実現している。社会や環境だけでなく、経済の持続性をも見込み、同社のコア技術や電子顕微鏡を通じて、少子化問題などの社会課題の解決に向けてチャレンジしている。
質疑応答の様子
まなびのポイント3:広がるCFOのカバレッジ
日本における、財務担当役員としてのCFOは「金庫番思考」となり、リスクの取り過ぎに対してブレーキをかけがちである。一方で、欧米の「CFO思考」を持ったCFOは、リスクの“取らなさ過ぎ”を監視する役割がある。会社を潰さないよう、許容出来る範囲を見極めるとともに、会社の目的や事業計画達成に向けて“進んで受け入れるリスク”を考えるのだ。
そのため、財務戦略だけではなく、会社全体の戦略を把握し、会社の成長性を対外に伝えていく役割がCFOには求められる。株主にとって会社の成長性を訴え、さらには採用へのPRにも繋がるため、未来を語ることが重要だと話す徳成氏。「日本にはまだまだ大きな成長余地がある」と力強いお言葉をいただいた。