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研究リポート

ナンバーワンブランド研究会

コロナ後の新しい時代に合わせた最新のブランディングを研究し、参加者の皆様が自社で実装するために、コンサルタントがアドバイス・サポートいたします。
研究リポート 2024.09.09

ブランドビジョンを体現する白岩の取り組み

白岩

【第6回の趣旨】
タナベコンサルティングの第6回ナンバーワンブランド研究会では、独自のブランディングの先進事例を学ぶため、「IWA5」というブランドの日本酒メーカー・白岩と、IT事業や電子部品事業、電子機器事業などを展開する立山科学グループに講演いただいた。
富山県立山町に拠点を構える白岩は、ブランドの世界観を軸に、多くの顧客に日本酒の魅力を伝えることを大切にしている。空間・設備・場所・日本酒(味・香り・デザイン)の全てにこだわり、ブランドの世界観の具現化を徹底する同社のCEO、シャルル アントワン・ピカール氏に、日本から世界に羽ばたくブランドストーリーと世界観の創り方のポイントを解説いただいた。

開催日時:2024年8月6日(富山開催)

 

 

株式会社白岩
CEO シャルル アントワン・ピカール 氏

 

 

 

はじめに

 

2021年に富山県・立山町に完成した酒蔵を拠点に、フランスのシャンパーニュ製造のノウハウを日本酒醸造に取り入れた日本酒の製造・販売を手掛ける白岩。同社は、世界的に有名なシャンパン「ドン ペリニヨン」を、5代目の醸造最高責任者として率いたリシャール・ジョフロワ氏が日本で2018年に設立した会社であり、同氏が創り出した「IWA」という理念を体現している。

 

IWAブランドの日本酒は、より多くの人に日本酒の良さを知ってもらうことをコンセプトとし、 「分け隔てなく、全てを包み込むような包容力のあるコミュニティ」を醸成。真の日本酒かつ世界基準の日本酒であるために、アッサンブラージュ(ワイン造りで使われる原酒を組み合わせる手法)を取り入れている。

 

 


白岩の日本酒「IWA5」。ボトルやラベルのデザインはマーク・ニューソン氏が手掛けた

 


 

まなびのポイント1:理念・ブランドの世界観の確立・具現化

 

白岩は、IWAブランドの世界観を徹底的に突き詰め、具現化している。「富山の名水」で有名な地に根差した同社の酒蔵は、富山県の世界遺産である五箇山の合掌造りの古民家の茅葺屋根からインスピレーションを受けた。

 

建物内には富山で採れた杉材を使用し、壁には稲が混じったままの和紙を使い、風合いを演出している。工場内の配管も、さえぎるものがない“ブルースカイ”な設計で、見やすさ・作りやすさを追求している。

 

ワインは自然・環境、日本酒はプロセスを重視すべきという考え方を持ち、“立山”という土地で日本酒の醸造プロセスにこだわっていることが、同社のブランドストーリーの醸成につながっている。

 


建築家・隈研吾氏によって設計された酒蔵「白岩」

 

 

 

 

まなびのポイント2:コンセプトやつながりのストーリーを価値へ変換

 

日本酒「IWA5」は、同社のブランド価値の結晶であり、顧客を魅了してファンを増やしている。ボトルやラベルは、世界的なプロダクトデザイナーであるマーク・ニューソン氏によりデザインされ、この世に二つとない表現でコンセプトが具現化されている。

 

また、日本酒の酒蔵には珍しいが、3つの酒米・5産地から酒米を仕入れている。にもかかわらず、1年に1つのIWA5という商品しか作らない。

 

白岩は自社でも米作りをしているが、「自作」にこだわりすぎず、ブランドコンセプトを体現するためにさまざまな手法を用いるところが面白いポイントである。

 

IWA5のブランドサイトでは、なぜ立山の地で創業したのか、アッサンブラージュの手法による酒造に至ったのかなど、創業や成長のストーリーが明確に示されており、ブランド価値を形成している。

 

 


「IWA5」のブランドストーリーを伝えるサイト

 

 

 

 

まなびのポイント3:”SAKE OF JAPAN“

 

日本酒を世界中の人に楽しんでもらえるような日本酒造りをコンセプトとしているため、IWA5の味わいは軽やかである。また、常に同じ味ではなく、アッサンブラージュと熟成により毎年違った表情を見せるため、常に世界観に没入できる「体験価値」を提供し続けることができる。

 

直近は、そうした取り組みの認知が広がってファンが増え、2023年の国内の売り上げは2022年比で300%伸びた。この“SAKE OF JAPAN”ブランドであるIWAを海外の顧客にも訴求することをビジョンとし、同社は1年半後のアッサンブラージュの完成に向け、「五百万石」という品種のコメの栽培や、製造・低温熟成の工程の研究を続けている。