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研究リポート
デザイン経営モデル研究会
経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート 2024.09.02

専業分野への特化からマーケットチェンジに取り組んだ老舗産業部品メーカーのデザイン経営 ベルニクス

【第6回の趣旨】
デザイン経営モデル研究会では、デザインの力を「体験価値」と「自社らしさ」を創る資源の1つとして捉え、他社との差別化や高収益を実現するためのヒントを探ることを目的とする。
秀逸なデザイン経営モデルを持つさまざまな企業・団体の現場を「体験」する機会を提供しており、第6回の1日目は、ベルニクス代表取締役社長の鈴木健一郎氏に登壇いただいた。老舗産業部品メーカーである同社の専業分野への特化からマーケットチェンジに取り組んだデザイン経営活用の取り組みについてひも解いた。

 

 

株式会社ベルニクス
代表取締役社長 鈴木 健一郎 氏

 

 

はじめに

 

ベルニクスは1978年に産業機器電源メーカーとして創業し、前身の企業から70年超を超える歴史を持つメーカーである。

 

同社は、高周波、高電圧、高速スイッチング、アナログ・デジタル混在、低ノイズ、絶縁、超小型化実装技術などの固有技術を生かし、さまざまな産業機器電源を設計、開発している。中でも、顧客の多様化するニーズを的確に捉えた特注電源の開発においては、航空機器、医療機器、原子力発電機器、火力発電機器、鉄道機器、通信機器などの品質・専門性を有する電源機器を設計・製造する事で、社会課題を解決するソリューションを提供している。

 

自社の固有技術を生かし新たなマーケットに向けて技術を多様化させることで、既存のマーケットを飛び出した成長戦略の実施と、自社製品による社会デザインを実施した戦略についてご講演いただいた。

 

 


ベルニクスが手掛ける標準電源
※ベルニクス講演資料より抜粋

 


 

まなびのポイント1:自社の固有技術を生かしたワイヤレス給電技術の開発

 

今後の成長戦略を描く上で、他社との差別化は重要である。事業戦略は「固有技術×マーケット」の掛け合わせによって成り立つが、自社の低ノイズ技術や高絶縁技術、デジタル技術、知財技術を、どのマーケット・社会をターゲットにするかを検討した結果、ワイヤレス給電技術で、新たなワイヤレス給電プラットフォーム「POWER SPOT」を立ち上げるに至った。

 

ワイヤレス給電技術の強みは、利便性・物体透過・防水防塵である。ケーブルレスで物体を近づける事で充電できる利便性の高さや、ガラス・木材・樹脂などを通して給電できる物体透過、金属電極・コネクターが無いことから防水防塵が可能となり、さまざまな場でケーブルレスで給電・充電が実現できる。同社は「POWER SPOT」をベースにさまざまな企業と社会実装を行い、新たなマーケットを開拓している。


ワイヤレス給電技術の原理
※ベルニクス講演資料より抜粋

 

 

まなびのポイント2:固有技術による差別化と技術保護

 

ワイヤレス給電技術を軸とした新ビジネスの展開は、成長を実現する段階で重要ではあるが、ビジネスアイデア、技術を模倣される可能性も高くなる。これは成長戦略の効果が薄まることにつながる。

 

同社は、自社の技術を保護するために知財をしっかりと押えている。回路特許、意匠(デザインパテント)でビジネスを守るという戦術を取った。このような戦術・固有技術を生かし、ワイヤレス給電技術を活用したシェアサイクル事業では、大手シェアサイクル企業に採用され、現在では、首都圏を中心にさまざまなエリアに展開されている。

 


ワイヤレス給電技術の活用
※ベルニクス講演資料より抜粋

 

 

まなびのポイント2:ビジネスを通じた社会課題解決

 

同社は、自社の保有する固有技術を再認識し、社会課題に対しての突破口を生み出している。

 

ワイヤレス給電技術をデジタル化したプラットフォーム「POWER SPOT」は、ケーブルレスでシームレスな給電を街や駅、店、ホテル、家などで実現する事で、ケーブルやバッテリーなどの消費ゴミ削減につながっている。また、デジタル化された「POWER SPOT」は、再生エネルギーと化石エネルギーを分別する事で100年変わらないエネルギーのタッチポイントを変え、ユーザーがエネルギーを選んで使う脱炭素社会の実現につながるデータビジネス展開を目指す。同社は、自社が保有する技術にデザイン経営を加えることで、社会課題を解決する技術・ビジネスに変化させているのだ。

 


「POWER SPOT」のイメージ
※ベルニクス講演資料より抜粋