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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2024.08.20

ニッチ分野で勝負する日進ワールドデリカテッセンの店づくり 日進畜産工業

【第2回の趣旨】
タナベコンサルティングの今期の食品価値創造研究会は、「アフターコロナのEATトレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、「食のEAT視点」で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。

第2回は『「時間(トキ)・ヒト・モノの流れ」が作る食の新結合』をテーマとし、「食の温故知新」×「歴史を通しての現業態」を学ぶべく3社を訪問。これまでの歴史があってこそ今があることを体感するとともに、今後どのような未来を描くのか、各社の取り組みに学んだ。

開催日時:2024年4月19日(東京開催)

 


*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

 

日進畜産工業株式会社
代表取締役社長 鈴木 直人 氏

 

 

はじめに

 

日進畜産工業は、1916年の創業以来、「最高の素材、最高のテースト」をテーマとして掲げ、食肉とその加工品の製造・販売を手掛ける企業である。同社には、次の3つの事業の柱がある。

 

①日進ワールドデリカテッセン事業

東京・東麻布に店舗を構え、自社製造の食肉加工品のほか、30カ国以上の輸入食材を取り扱うインターナショナルスーパーマーケットの運営

 

②百貨店事業

三越伊勢丹、高島屋などの有名百貨店での食肉加工品売り場運営

 

③ホテル事業

ヒルトン、マリオットなどの有名ホテルへの食肉加工品の卸売り

 

研究会参加者は、日進ワールドデリカテッセンの店舗を視察。代表取締役社長の鈴木直人氏より、創業から現在までの同社の成長について講話いただいた。

 

 


日進ワールドデリカテッセンの外観

 


 

まなびのポイント1:外国人客からの意見は全て反映

 

日進ワールドデリカテッセンには、開店前から数名の外国人客が並んでいた。実際、来店客に占める外国人客の割合は半数以上を占めるという。日系大型スーパーと同様の商品ラインアップでは顧客獲得が難しいことから、世界中の食材を集め、見ているだけで楽しい店づくりと、外国人客からの意見は全て店づくりに反映することをコンセプトとしている。

 

一般的なスーパーと異なり、食肉コーナーにはターキーやイノシシなどの珍しい輸入肉が並び、ワインコーナーでは生産国だけでなく生産地域で区分けされた豊富な種類のワインを販売。一方で、弁当・総菜などの販売はほとんどなく、素材を購入し、自宅で調理する外国人客の食文化に則した商品展開を徹底している。

 

店内1階には自慢の自家製ソーセージやハムを使用したホットドッグ・ハムカツを楽しめるイートスペースが併設されており、買い物終わり客のコミュニケーションの場も提供している。

 

 


「宮内庁御用達」の看板を掲げる精肉部門

 

 

 

 

まなびのポイント2:創業から掲げるテーマを原点に、顧客第一主義を徹底

 

(1)日進畜産工業の沿革

1916年に創業し、100年以上の歴史がある同社。戦前は国民の健康向上のため優れた栄養源の供給を、戦後は世界に追い付く復興エネルギーとなる食品の供給を使命として掲げていた。

 

また、高度経済成長期から平成にかけては、海外食文化の伝道師となることや、HACCP徹底による世界基準での安全・安心な食品を供給することに取り組み、現在の同社の礎を確立した。

 

令和においては、予測外のコロナ禍による大打撃があったが、創業当初から掲げているテーマ「最高の素材、最高のテースト」の原点に立ち返り、良い原料の商品を顧客第一主義で提供する経営を行っている。

 

(2)日進ワールドデリカテッセンの移転

視察した日進ワールドデリカテッセンは、移転後の店舗である。初代の店舗は、2016年、隣接する食肉製品生産工場が耐震強度不合格になったことをきっかけに、移転することとなった。売り上げ好調だった店舗の移転は苦渋の決断だったが、当時の財務状況として有利子負債が相応に膨らんでいた背景も踏まえ、担当銀行との協議を重ねた。最終的には、①初代店舗の売却、②有利子負債の全額返済、③売り場面積を大幅に縮小した新店舗への移転を、2018年に実行した。

 

 


移転前、初代の日進ワールドデリカテッセンの外観

 

 

 

(3)移転後の増築と顧客第一主義の徹底

移転後の店舗では、外国人リピート顧客を中心に「店舗が狭い」「品ぞろえが悪くなった」などの改善要望が多く寄せられ、厳しいスタートとなった。そんな中、移転後店舗の隣地を買える機会が巡ってきたが、隣地の購入に関しては経営陣・担当銀行からネガティブな意見が多数あった。

 

しかし、困難な状況でも顧客第一主義を徹底するという信念の下、隣地購入と店舗増築を2020年に実行。初代店舗の8割ほどの売り場面積を確保でき、商品ラインアップを徐々に拡充した結果、2023年の「東京都で人気のスーパーマーケットランキングTOP10」(ITmedia)にて第1位に選出されるなど、顧客に高く評価される店づくりを実現している。

 

 


肉・ワイン・チーズを名物として掲げ、特に食肉コーナーには自社製ハムソーセージからワニ肉などの珍しいものまで、豊富な種類の食材が並ぶ