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研究リポート

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート 2024.08.08

北海道の食品を、東アジアへ、そして世界へ届ける

北海道食品開発流通地興

【第6回の趣旨】
アグリサポート研究会では、「アグリ分野の持続的成長モデルを追求する」をコンセプトとして掲げている。
第6回は、アグリ業界において先進的な取り組みを行う企業を視察。
2日目は一般財団法人北海道食品開発流通地興代表 谷澤廣氏の講話から、食産業におけるグローバル化の必要性とカギ、これからのグローバル化の展望について学んだ。

開催日時:2024年7月11日~12日

 

一般財団法人北海道食品開発流通地興 代表理事 谷澤 廣 氏

 

一般財団法人北海道食品開発流通地興
代表理事 谷澤 廣 氏

 

 

はじめに

本研究会講談者である谷澤氏は北海道ガス(株)、函館副市長を経て、「何か社会に役立つことをしたい」という思いから、2012年に一般財団法人北海道食品開発流通地興を設立。起業コンセプトは「北海道の食品を世界へブランド化すること」。鮮魚・食肉加工品・冷凍スイーツなど幅広い食品の輸出事業を手掛ける。輸出圏は香港・マレーシア・シンガポールを中心とした東南アジアである。

 

また同氏は食肉類の輸出基盤の構築を受けた、事業拡大および資金調達のため、北海道食品輸出開発株式会社を2022年に新設。小売りチェーンのアクセス構築をはじめとして、食肉類製造を手掛ける大手企業のアジア進出を支援している。

 


 

まなびのポイント 1:「なぜグローバル化」なのか

2012年をピークに日本の総人口・生産年齢人口減少が進んでいる。また少子高齢化も深刻な課題となって久しい。北海道内では2024年時点520万人から2050年には400万人に減少すると予測されている。谷澤氏は「食産業においては消費量が消費者人口に比例する。消費者人口が多いに勝ることはない」と話す。

 

同財団は、来たる日本の経済衰退ひいては人口減少・少子高齢化を見通し、日本の食産業のために、消費者獲得に向けて食品のグローバル化に動いた。海外への多様化した「食」への輸出が、今後の食産業における市場拡大のカギとなっていくことは間違いない。北海道のみならず食産業全体で、島国完結のサプライチェーンから「脱皮」し、海外市場へ参入していく「挑戦」が求められている。

 

日本人口の推移。急速に人口減少が進んでいることが分かる
日本人口の推移。急速に人口減少が進んでいることが分かる

 

まなびのポイント 2:食産業グローバル化のカギは「連携」と「交渉」

同財団は「道産食材の拡大」「鮮度重視」「新たな流通ネットワークの構築」を目指し、食品の輸出を推進してきた。食製品のグローバル展開のカギは「連携」と粘り強い「交渉」である。

 

(1)連携:中国・北京への鮮魚輸出

長崎市は上海との長年の付き合いで形成された「人脈」と「整備された流通経路」により、先んじて鮮魚輸出に着手していた。東アジアとのコネクションに目を付けた財団は、北海道が誇る漁獲量を生かすため、長崎市との連携を通じて中国・北京市への進出を進める。また国・民間企業とも協力し、衛生証明や放射能検査などの課題を解決。北海道の鮮魚輸出を実現した。

 

(2)交渉:中国への道産アイスの輸出

大手企業が「氷菓子」としてアイスを輸出している中、中小企業のアイスクリームが輸出できていない状況を改善するため、農水省、経産省、国土交通省、厚生省と協力し、新たな輸出制度を整備。その結果、上海市場へのアイスクリーム輸出を実現した。

 

国・道・民への要請と結果。財団自ら各団体へアプローチすることで、鮮魚グローバル化への道を切り拓いた。
国・道・民への要請と結果。財団自ら各団体へアプローチすることで、鮮魚グローバル化への道を切り拓いた。

 

 

まなびのポイント 3:厚沢部町カボチャのグローバル産地づくりとは「農業の収益性を拡大することである」

 

北海道厚沢部町では、かぼちゃの生産において高齢化が進み、収穫量が減少。若者の参入と付加価値の追求のためにとられた3つの施策を紹介する。

 

(1)出荷量増加と輸出

かぼちゃは約4割が規格外品であり、土に還す。規格外品の多さを解消し、廃棄していたかぼちゃのうち2割を財団とつながりのあった香港・マレーシアに輸出。これにより、廃棄していた部分を収入に変え、地域経済を支えている。

 

(2)農作業の自動化

ドローンを使ったかぼちゃの健康判断で農薬や飼料の効率的な管理を行い、経費を削減。

 

(3)長期貯蔵の導入

厚沢部町では理科室を利用したかぼちゃの長期貯蔵システムを開発。温度や湿度、風を管理することで、出荷ピーク時期以外でも市場で高値で取引できるようになり、かぼちゃの収益性を大幅に向上させた。

 

厚沢部のカボチャの貯蔵システム。ストーブやダクトを使うことで貯蔵に適した環境を実現している。
厚沢部のカボチャの貯蔵システム。ストーブやダクトを使うことで貯蔵に適した環境を実現している。