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研究リポート

食品価値創造研究会

AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2024.07.26

「先代に感謝し、100年先の未来に繋げる経営 600年以上頑なに変えてこなかった味噌作りの製法」

まるや八丁味噌

【第3回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では、「アフターコロナのEATトレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の*“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。第3回中部開催のテーマは『時代の変化に合わせた食の提供価値変化』。伝統企業の提供価値変化や、消費者の嗜好の変化に伴う業態変化、こだわりが生む外食価値の変化など、“時代の変化”に合わせたさまざまな「食の提供価値変化」を知り、食品業界がこれからも進化するためのポイントを学んだ。

開催日時:2024年6月26日(中部開催)


*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

 

まるや八丁味噌
代表取締役 浅井 信太郎 氏

 

 

はじめに

 

まるや八丁味噌は、延元二年(1337年)に創業した600年以上続く”超”老舗企業である。

 

江戸時代から始めた八丁味噌を造るのに使用するのは、大豆・塩・水のみ。六尺(約2メートル)の杉桶の中で、 二夏ニ冬(二年)以上の歳月をかける製法は、創業当時から今も変わらないという。

 

代表取締役である浅井 信太郎氏は、伝統的な製法を守りつつ新しい取り組みを進めてきた。

 

海外留学の経験から、オーガニック食品の可能性を早くから見いだし、1989年には有機大豆を使用した有機八丁味噌を発売。国内はもとより複数の海外の有機認証機関の認証を受け、今では八丁味噌の生産量の約10%を海外へ輸出している。600年以上続く伝統を未来へつなぐため、先代・従業員・お客さま・地域社会への感謝を重んじながら進めてきた取り組みについてご講演いただいた。

 

 


まるや八丁味噌の本社(上)
伝統的な石積み製法(左下)と、二夏ニ冬寝かせた八丁味噌(右下)

 


 

まなびのポイント1:先代へ感謝し、100年先につなぐ経営

 

八丁味噌の仕込みに使用する木桶には、樹齢100年以上の吉野杉が使われる。100年以上前に先人たちが植えた杉の木を使用し、新たな木桶を作る。木桶を巻くタガは5年の真竹が使われる。この木桶の耐用年数は100年以上で、蔵内の木桶は1864年に作られて今も現役で使用されている。「今日八丁味噌造りが出来ているのは先代から引き継いだ材料があってこそ」だと、浅井氏は日々先代への感謝を忘れないという。

 

先代から引き継がれたものは木桶だけではない。みそ蔵には脈々と江戸時代から世代交代しながら生きている微生物群がいる。この菌類にやさしい環境維持に努めている。八丁味噌は天然醸造のみで熟成し、蔵に棲み着く菌類の力を借りて、独特の風味を醸し出している。

 

「創業から変わらぬ八丁味噌を未来へ伝えることが『我々の使命』である」と浅井氏は力強く語った。

 


樹齢100年以上の吉野杉で作られた木桶。
1864年に作られ、今も現役で使われている木桶もある

 

 

 

まなびのポイント2:600年以上変えてこなかった味噌作りの製法

 

八丁味噌という名称は、徳川家康公生誕の地である岡﨑市の岡﨑城から西へ八丁(約870m)の位置にある八丁町(当時:八丁村)の製法で味噌が造られていたことが由来だという。伝統的な石積み製法で、木桶で二夏二冬(二年)以上寝かせたものを指す。6トン容量の木桶に3トンの丸い川石を円錐状に積むためには、熟練の経験が必要だという。

 

江戸時代から続くこの製法は製造量に限りがある。売り上げも重視しながら、付加価値を高める案として、チーズ風味の八丁味噌を独特な製法でパウダー状にするアイデアに辿り着いた。異なる用途提案で付加価値の増大が期待できるという。 ただ貪欲に売り上げを追うのではなく、いかに付加価値を付けるか、そして、八丁味噌造りにおいて絶対に変えてはいけないことは何か、明確に定められている点は学ぶべきポイントである。

 


創業当時から続く伝統技法「石積み」で醸造中の味噌


八丁味噌パウダーをかけたバニラアイスクリームは、チョコレートのような味

 

 

 

まなびのポイント3:事業拡大に走らず、本業に注力し、従業員へ感謝する

 

まるや八丁味噌は着実な経営により、過去20有余年黒字経営を続けている。社員のリストラはせず、必ず昇給をするが信念。 世界にはまるや八丁味噌を求める未知の顧客がいる。日本の守るべき伝統を伝える、伝道師としての大きな役割がある。「まずは一人のお客さまに知ってもらうこと」に時と熱意を注ぐ。

 

お客さまだけでなく従業員にも感謝の気持ちをにじませる浅井氏。従業員は縁があって入社した方々であり、その従業員が造って頂いた八丁味噌を、縁あって購入したお客さまが引き続きご愛顧いただき、この繰り返しで今日まで何百年も続いていると考える。そのため、味噌を造ってくれている従業員は最も大切な財産の1つであると言う。

 

同社では、地元の大豆と天然井戸水仕込みの八丁味噌造りも続けているという。事業を継続させることに尽力し、拡大を優先せず、お客さま・従業員・地域に支えられていることに感謝の気持ちを持って、高品質で高信頼の八丁味噌という作品を作り続けることが浅井氏の信念である。

 


世界20か国以上で販売される八丁味噌
「Hatcho Miso」


三河産の大豆と地域の酒蔵の仕込み水を使った
三河仕込の八丁味噌