【第3回の趣旨】
当研究会では、報道する立場であるメディア目線からクロスメディア時代の経営モデルに不可欠な本質的価値と最先端事例を学び、メディア・ステークホルダーを戦略的に動かして物やサービスを売る方法や、自社の魅力を最大限に発信する広報・PRのメソッドを提供する。
第3回は、「全国レベルで第一想起ブランドへ成長した地方企業のPRとは」と題して、ゲスト2社(オタフクホールディングス様・三島食品様)からPR・広報について講演。地方に愛される企業の戦略構築について深く考察した。
開催日時:2024年6月27日(広島開催)
執行役員 広報部 部長 大内 康隆 氏
はじめに
2022年に創業100周年を迎えたオタフクソース。佐々木商店として卸小売業を展開していた創業時から今に至るまでの成長遍歴と、広島に根付くお好み焼きという食文化の歴史を振り返りながら、同社がお好み焼きという食文化振興のために取り組んできた活動と、その活動をより多くの人に知ってもらうためのPR戦略について、執行役員広報部部長の大内康隆氏にご講演いただいた。
講演においても、「商品の機能的価値だけでなく、食文化の歴史や魅力などの社会的価値を伝えることに意味がある」という姿勢を一貫しており、県内はもちろんのこと、県外、さらには海外のメディアにも広島の食文化や、食材、観光などのキーワードと併せて取り上げられることが多い。
大きなPR戦略の仕掛けとして、CX(顧客体験価値)の提供にも力を入れており、お好み焼きの歴史を振り返ることができるミュージアムの開設や、学生への体験学習の場づくり、体験にフォーカスした直営の飲食店など、さまざまな取り組みを進めている。
まなびのポイント1:食文化振興をミッションに掲げたPRストーリーの構築
広島県内には三原焼きや呉焼きなど、各市町にそれぞれのご当地お好み焼きが存在する。
「ご当地お好み焼きを県内の方々に知ってもらい、さらには観光促進につなげたい」という思いのもと、広島県観光連盟や各市町の行政と連携しメディアに取り上げられる仕組みづくりを創業100周年のタイミングで実施した。
PR戦略の場合、広告のような商品の魅力を一方通行で伝える方法では上手くいかない。発信主・メディア・生活者の3者が双方向でコミュニケーションを取ることができ、それぞれにとって有益な情報や取り組みであることが重要である。
地方都市に本社を構える同社は、地元が盛り上がる、食文化を再燃させるPRストーリーを構築することで、報道が報道を呼ぶ「報道連鎖」につなげている。
オタフクホールディングスが創業100周年を記念して県内10市町に「ご当地お好み焼きマンホール」を寄贈した際に行った式典の様子
まなびのポイント2:CX最大化に向けた取り組み
同社の代表的商品である「お好みソース」が最も価値を発揮するのは、「味わう」ときである。お好み焼きを自分で作ったり、食べながら友人と会話を弾ませたり、そのような体験の場を増やすための取り組みに投資している。
体験価値提供の大きな柱となっているのは、体験型飲食店の「OKOSTA(オコスタ)」と、お好み焼きの歴史を肌で感じることができるミュージアム「Wood Egg(ウッドエッグ) お好み焼館」の2つである。修学旅行で広島県を訪れる学生を招いて体験学習に活用したり、外国人観光客に広島県のソウルフードとして紹介・体験の場を提供したりしている。
各種メディアを活用した手法と、リアルで体験を提供する手法の2軸を推進する広報体制を築いている。
お好み焼きの歴史を肌で感じることができるミュージアム「Wood Egg(ウッドエッグ) お好み焼館」。お好み焼きの歴史や、栄養素、食べ方、さらには同社の歴史について深く知ることができる
まなびのポイント3:チャンスを生かしたグローバルPR展開
同社は、「小さな幸せを、地球の幸せに。」をスローガンとして掲げており、世界各国へお好み焼きの魅力を伝える活動を行っている。2023年5月にG7サミットが広島県で開催されることが発表されると、「世界に広島県の食文化であるお好み焼きの魅力を伝えられないか」と戦略づくりを始めた。
模索状態であった同社は、まずはアイコニックとなるポスターなどを制作。広島市中心部での大型看板や交通の要所、さらにはお好み焼き店など、県内のさまざまな場所へ露出を行った。また、お好み焼きの普及活動を行う財団と連携し、参画国の母国料理のエッセンスを加えたお好み焼きも開発した。これらの取り組みを県内のメディアにも積極的に発信することで、国内メディア、各国メディアへと報道連鎖を起こし、情報拡散に成功した。
また、G7広島サミットの支援組織へのアプローチを続け、各国のメディアが集うメディアセンターでのお好み焼き提供も実現。さらには、英国のリシ・スナク首相が「OKOSTA(オコスタ)」でお好み焼きを体験するという思いがけないサプライズもあり、お好み焼きと同社が世界へ認知されるチャンスを手にした。
メディアセンターにて国内外のマスコミにお好み焼きをふるまった