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研究リポート

住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会

人口減・高齢化・住宅への価値観の変化など「住まいと暮らし」領域を取り巻く環境は著しく変化しています。強みを明確にし勝ち続けるためのヒントを事例企業より学んで頂きます。
研究リポート 2024.07.25

SDGsを活用したバックキャスティングによる経営手法

九州教具

【第5回の趣旨】
タナベコンサルティングの住まいと暮らしビジネス成長戦略研究会は「共創​―複合価値創造カンパニーを目指そう―」をコンセプトとして掲げている。
第5回のゲスト講師は、九州教具と北九州未来づくりラボの2社。九州教具は、創業者が教育者であったことから、設立当初は教材や教具を主たる商材としていたが、ほどなく複写機やコンピューター関連機器に取り扱いの幅を広げ、教育機関のみならず、官公庁全般、一般企業に対するきめ細かい対応で地域との信頼関係を築き上げてきた。現在は祖業のノウハウを生かし、ホテル経営、ミネラルウォーターの製造・販売など、さまざまな事業を展開している。今回は「SDGsを活用したバックキャスティングによる経営手法」をテーマとし、同社の地域密着型ビジネスモデルに学ぶ。

開催日時:2024年5月23日(福岡開催)

 

 

九州教具株式会社
代表 船橋 修一 氏

 

 

はじめに

1946年、九州教具は、長崎県大村市で本田文具店という小さな個人商店として創業した。その後、70年という長い年月を経て、同社は長崎一円を中心に福岡へと事業を展開する企業グループとなった。現在は、地域に密着し、顧客の事業の課題解決のために最適なビジネスインフラを提案する「ソリューション事業」、安心・安全で充実した宿泊インフラを提供する「ホテル事業」、生活に欠かせない水をローリングストックというインフラにして届ける「ウエルネス事業」の3事業を行っている。

 

これら多角的な事業展開の根底には、初代社長である本田嘉末氏が遺した社是「誠実にして正確を旨とし社会に貢献すべし」があり、それぞれの事業における意思決定や、社員の行動指針となっている。

 

同社は、「社会に貢献する企業」=「お客さまのお役に立つ企業」と定義しており、顧客の課題(Question)を、迅速(Quick)に、最適(Quality)に解決する存在であることを目指し、「Business-Infrastructure-Createカンパニー」として歩みを進めている。

 


出所:九州教具コーポレートサイト

 


 

まなびのポイント 1:九州教具グループが目指すもの

時代とともに変化した同社がたどり着いたのが「CSV経営」である。CSV経営とは、自社の競争力を高めると同時に、社会的価値を創出する経営手法を指す。企業の成功と社会の発展が相互に関連しているという考え方に基づいており、まさにSDGsへ結び付いている。

 

同社は「私たちにかかわるすべての人が笑顔になれる『具体的な理想』を描く」をスローガンとして掲げている。人間関係が構築されていなければ笑顔は見られない。例えば、社長と社員の関係が構築されていなければ、笑顔を見る機会は少ない。

 

同社で働く社員はホスピタリティーにあふれ、ダイバーシティーを積極的に推進している。その裏には、企業文化としての「思いやり」が深く根付いている。この思いやりは、社員同士だけでなく、顧客やパートナー企業との関係にも反映されている。こうした経営を通じて、同社は持続可能な未来を築くためのリーダーシップを発揮している。

 

 

 

 

 

まなびのポイント 2:九州教具グループが取り組むSDGs

同社は、顧客の真の課題を解決したいという思いから、ソリューションビジネスを展開した。さらに、「モノ売り」ではなく「コト売り」への転換を目指し、ホテル事業というサービス業へ参入した。

 

同社では、バックキャスト思考を全社員へ浸透させるため、自分の夢をテキスト化するという仕組みが形成されている。その夢は、同社と関係のない人生の夢でも良い。

 

ある社員は「故郷のバングラディシュに水族館を建てる」という夢を掲げた。その場合、夢をかなえる時には退職という選択肢が採られる。しかし、代表の船橋修一氏は、それで良いという考えを持っている。

 

さらに、船橋氏は、夢をテキスト化する仕組みを通じて、社員一人一人の自己実現をサポートすることが、自社の成長と革新につながると信じている。この考え方が社員のエンゲージメントを高め、自分の役割へのモチベーションを高めることを促している。実際に、社員が個々の夢を追求する上で得たスキルや知識が、同社の競争力向上に寄与している。

 

 


2022年には、地方新聞46紙と共同通信社が表彰する「第12回地域再生大賞」で「SDGs企業賞」を受賞
写真提供:九州教具

 

 

 

まなびのポイント 3:時間をどう考えるか

経営においては、バックキャストで高い目標を目指すことが重要である。積み上げ式のフォアキャストでは俯瞰的に物事を捉えることが難しい。

 

同社ではバックキャスト思考が浸透することにより変化が起きた。過去は否定せず、肯定する。自分の過去を肯定することができてはじめて、理想の未来を描くことができる。

 

「心配」と「期待」を両立させることで、社員一人一人が挑戦する意欲を持つようになった。自己の成長を実感しながら、会社のビジョンに向かって進むことができる。単なる成長ではなく、質の高い成長を目指し、社会に対しても大きな貢献を続けている。これこそが、バックキャスト思考による経営の真髄であり、同社が未来を切り開く力となっている。