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研究リポート

食品価値創造研究会

AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2024.07.26

さわやかが大切にしたいこと

さわやか

【第3回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では、「アフターコロナのEATトレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の*“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。第3回中部開催のテーマは『時代の変化に合わせた食の提供価値変化』。伝統企業の提供価値変化や、消費者の嗜好の変化に伴う業態変化、こだわりが生む外食価値の変化など、“時代の変化”に合わせたさまざまな「食の提供価値変化」を知り、食品業界がこれからも進化するためのポイントを学んだ。

開催日時:2024年6月26日(中部開催)


*本研究会のテーマ「E・A・T」の解説

 

 

さわやか
代表取締役 富田 玲 氏

 

 

はじめに

 

1977年に開店した第1号店から始まり、現在では「炭焼きレストランさわやか」を静岡県内に34店舗(直営方式)展開しているさわやか。看板メニューである「げんこつハンバーグ」「おにぎりハンバーグ」のおいしさや素晴らしい接客はもちろんのこと、お店にはお客さまの笑顔・元気で溢れている。

 

これほどまでに地元ファンに深く愛されているのは、創業の精神を受け継いでいること、コロナ禍がもたらした気付き、自社の存在価値を考え続けていることがポイントになっている。人々がエネルギーにあふれ、笑顔で、元気になる、どこにもないオンリーワンの店を目指す同社の取り組みから学ぶ。

 

 

 


 

創業の精神を受け継ぐ

 

社名である“さわやか”とは「自然のイキイキとした状態」を指している。創業者である富田重之氏は、26歳で結核を患い10年もの年月を闘病生活に費やした。本来であれば輝かしい青春時代の10年を闘病しながら過ごしたことで、自分が世界で一番不幸だと感じ、やがて両親さえも恨むほどであったという。苦しみの中で自殺さえ頭をよぎったが「死ぬぐらいならば、もう一度人生をやり直そう」とプラス発想に変え、これまで思考を覆っていた被害者意識から脱却し、両親への深い愛情や、自然の恵みへの感謝の気持ちが芽生えた。

 

『両親の愛は無償の愛』『自然は差別のない愛』であることに気づいた自らの体験を世の中に表現したいという思いから、未経験にもかかわらず40歳でレストランを開いた。

 

看板メニューである“げんこつハンバーグ”のげんこつは『お父さんの愛』、“おにぎりハンバーグ”のおにぎりは『お母さんの愛』から名付けられた。心を込めて、いただいた命を大切にすることは『食べる人に生きる力を与えること』だという。ハンバーグが牛肉100%であることや、火力調整が難しい炭焼きにこだわるのは、創業の思いを今も大切にしているからである。

 


さわやかの看板メニュー「げんこつハンバーグ」

 

 

 

コロナという未曾有の危機の意味を考える

 

2020年春、二代目社長を引き継いだばかりの富田玲氏は全店休業を決断した。家族・友人で集まりおいしい食事を楽しんでもらう、そんな同社の店舗にとって、人の密を避ける政府の要請に、全店休業以外の道はなかったという。短い店でも1ゕ月間、長い店では2カ月間休業し、当然、売り上げもなく、営業再開の目処すら立たない絶望的な状況だからこそ、改めて「お客さまの大切さ」「仲間と働くことの大切さ」に気づかされた。

 

休業する際にはお客さまから温かい励ましの言葉が寄せられたり、営業再開時にはお客さまが涙を流して喜んだ姿を見て、お客さまにご来店いただくことが当たり前ではないと実感した。また、お客さまからの『再開してくれてありがとう』という言葉が社員1人1人の心に響いた。休業すると、当たり前のように顔を合わせていた従業員と会えないことにも気づき、皆と働くこと、力を合わせること、この仕事の尊さを学んだ。

 

富田氏はコロナ禍を経験して、過去に起きた事は変えられないが、過去に起きた事の意味は変えられることを実感したという。経験から何を学び、何に感謝して、前向きに生きるのかによって、起きたことの意味は変えられるのである。

 


さわやかのシンボルマーク。爽の漢字は
「メ」ではなくリーダーを中心に「人」が集まることで大きくなることを表現

 

 

 

私たちさわやかの「存在価値」

 

富田氏は、さわやかの「存在価値」を従業員に伝えることを大切にしている。さわやかは「モノ」を売っている会社ではないこと、ハンバーグは食べたらなくなってしまうが、家族や友人と過ごした楽しい「思い出」はずっと心に残ること、「モノ」ではなく「物語」を提供し、お客さまの元気を取り戻してもらうレストランであることを繰り返し伝えているという。そのような価値観を共有する同社には、お客さまと従業員の魂を揺さぶるような感動的なエピソードが無数に存在している。私たちにはこんな素晴らしいお客さまがいるからこそ、私たちの仕事には価値があるということを日々学べる環境なのである。

 

「モノ」は運べるが「物語」は運べないというポリシーから、経営が厳しかったコロナ禍でも、同社ではデリバリーやテイクアウトで料理を提供しなかったという。ファンに深く愛される理由は、創業以来の特徴的な看板メニュー、提供方法などテクニックだけでなく、お客さまに心から楽しんでもらいたいという自らの「存在価値」を追求している姿勢にあった。

 


さわやかの提供する『つくりたての愛情料理』と『お客様に寄り添った笑顔のサービス』にはファンが多く、連日県内外から多くのお客さまが来店する