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研究リポート

物流経営研究会

”物流は世の中を支えている”にもかかわらず、他業種と比較して長時間労働、低賃金です。第7期は高収益ビジネスモデル、人財確保・デジタル化への取組を全6社と参加企業から学びます。
研究リポート 2024.07.18

すべてはお客様のために~物流で沖縄経済に貢献する独自の取り組みとは~

沖縄ヤマト運輸

【第5回の趣旨】
昨今の物流業界を取り巻く環境は大きく変化しており、2024年問題をはじめ、人手不足や燃料費・人件費の高騰といった課題の解決は日増しに重要度を増している。時代によって変化する“顧客から求められること”に対し、“自社の持ち味”を合致させられるかどうかが重要であり、それが自社の存在価値を発揮することに繋がる。
第8期物流経営研究会は「自社の真の価値を再定義する~バリューコネクトを発見しよう~」をテーマとし、視察企業や学びをもとに“選ばれる企業”になる理由をあらためて明確にするヒントを提供する。また、「デジタル化」「環境対応」「採用」「育成」などの課題に対する解決の糸口になるよう、研究会参加者が学び、高め合う場でもある。
第5回は、独自のポリシー「すべてはお客様のために」を掲げ、物流で沖縄経済に貢献する沖縄ヤマト運輸株式会社のサザンゲート・沖縄ベースを視察。同社の取り組みについて、代表取締役社長の赤嶺真一氏に講演いただいた。

開催日時:2024年6月20日~21日(沖縄開催)

 

沖縄ヤマト運輸株式会社 代表取締役社長 赤嶺 真一 氏

沖縄ヤマト運輸株式会社
代表取締役社長 赤嶺 真一 氏

 

はじめに

 

沖縄ヤマト運輸株式会社は1985年に設立され、社員数1,394名、車輌数511台、拠点数32を誇る沖縄を代表する物流企業である。宅急便を展開するリテール事業、一般輸送や航空貨物輸送・国際フォワーディング等を取り扱う法人事業の2事業を展開している。

 

「すべてはお客様のために」という独自のポリシーを掲げ、物流を通じて沖縄経済に貢献している同社は、ポリシーに沿った独自の経営戦略を展開している。「沖縄」というガラパゴス化したエリアにおける人財・産業特性を活かした独自の戦略や取り組みは、「地域密着」で経済を支える物流企業に取って学びになるポイントが多く隠されている。

 

本レポートでは同社の成長の秘訣を「ビジネスモデル」「人財造り」「コスト構造改革」の3つの観点から解説する。

 

沖縄本社にてご講演いただいた赤嶺社長
沖縄本社にてご講演いただいた赤嶺社長


 

まなびのポイント1:“沖縄に経済に貢献する”ための独自のビジネスモデル

 

沖縄県の主要産業は観光に関連した第3次産業であるが、果物等の1次産業・加工品の2次産業も盛んである。それぞれの産業に特化したビジネスを同社も展開しているが、その中でも3次産業のホテル従業員の業務負荷軽減を目的とした「送り状事前登録システム」の開発は独自のビジネスモデル開発と言える。コロナ禍が明け深刻な人手不足に陥る中で、チェックインカウンターにて送り状の手続きを行うことはホテル従業員にとって業務負荷が非常に大きかった。

 

それらの「不便」に対して同システムを開発・導入することで顧客満足度や従業員負担が大幅に軽減、出荷実績も右肩上がりで向上している。エリア特性を活かした独自のビジネスモデル開発は物流企業にとって必須と言える。同社の事例を参考にしていただきたい。

 

 

 

まなびのポイント2:“沖縄県民から選ばれる”人財づくり

 

同社では【圧倒的な接客対応力で、沖縄で荷物を送るなら「沖縄ヤマト」】を定着させたいという赤嶺社長の想いから、GA(ゲストアテンダント)制度を導入している。本制度は運行管理者・サービス接遇検定2級の資格取得・社内試験合格等の条件により該当者をGAとして認定し、所長と共に店舗マネジメントを担う人財を育て評価する制度である。

 

同制度はヤマトグループ内で同社独自の取り組みであり、事務職を対象に導入され、GAは全て正社員となる(パートの方でも、GAとして認められれば正社員に昇格する)。

 

「やらされる仕事」から「自ら進んでやる仕事」へと社員のモチベーションを変える仕組みを導入することで、クロネコメンバーズ会員登録者数・直営店発送実績も右肩上がりで向上している。ぜひ参考にしていただきたい。

 

GAに認定された社員のみが着用可能なオリジナルかりゆしウェア。 社員のモチベーション向上にも繋がっている。 引用元:沖縄ヤマト運輸HP
GAに認定された社員のみが着用可能なオリジナルかりゆしウェア。
社員のモチベーション向上にも繋がっている。
引用元:沖縄ヤマト運輸HP

 

 

まなびのポイント3:自社課題を解決するコスト構造改革

 

独自の経営戦略を実行する同社であったが、課題も多く存在した。最も大きな課題が「コスト構造」である。営業収入は順調に推移していたものの、業務量に比例した人的コストの増加により利益率が低下しており、加えて働き手の不足から人材確保も困難である状況であった。この状況を変えるため同社は3つの改革を実行した。

 

1つ目が「集配改革」である。市場性やエリア特性を見極め、ドライバーを再配置して夜間の稼働を集約し、夕方までの生産性を改善した。これにより、個当たりの集配コスト・残業時間・ドライバーのライフワークバランスが改善された。

 

2つ目が「作業改革」である。新たな自動仕分機の導入と同時に作業オペレーションを再構築した。これにより個当たりの作業コストが改善された。

 

3つ目は「事務改革」である。バックオフィス業務の棚卸し・BPRを実施、RPAを導入したことで営業所あたりの1日の事務時間が1.8時間改善された。ぜひ参考にしていただきたい。

 

沖縄ベース1階の航空コンテナ。県内130の営業所のすべての貨物が集まる。
沖縄ベース1階の航空コンテナ。県内130の営業所のすべての貨物が集まる。