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研究リポート
尖端技術研究会
デジタルテクノロジーや先端技術を正しく知り、自社や業界における課題をどのように解決するかを考えるきっかけの場となるよう、企画をご用意しています。
研究リポート 2024.07.04

金属3Dプリンターを活用した「デジタル倉庫サービス®」 伊福精密

【第1回の趣旨】
世の中の技術は加速度的に進化しており、いかにスピーディーに自社のビジネスモデルに最新技術を取り入れるかが、全ての企業に求められている。この状況を踏まえ、タナベコンサルティングの尖端技術研究会は、新たなビジネスモデル構築に向けた着眼点の1つとして「テクノドリブン=先端技術から課題解決をデザインする」という考え方を提唱している。

第1回は、AI・ロボットで企業の課題解決をする最先端テクニカル・カンパニーである知能技術と、「デジタル倉庫サービス®」で職人技術のナレッジ集約を実現した伊福精密を視察し、取り組みについてご講演いただいた。

開催日時:2024年2月20日(神戸開催)

 

 

 

伊福精密株式会社
代表取締役社長 伊福 元彦 氏

 

 

はじめに

 

1970年創業の伊福精密(兵庫県神戸市)は、高精度機械加工を専門とするメーカーであり、最先端技術と熟練の技術者による高品質な製品を提供し続けている。主要製品は、自動車、航空宇宙、医療機器など多岐にわたる分野で使用される精密部品で、最新のCNC機械と精密測定機器を駆使し、厳格な品質管理の下に製造を行っている。

 

同社は「最大より、最高を目指す」を合い言葉に、さまざまな顧客ニーズに対応。顧客のベターチョイスではなく、ベストチョイスの製品を迅速に届ける柔軟な生産体制を整えている。信頼と技術力で業界をリードし、常に革新と挑戦を続ける同社は、未来の可能性を広げるパートナーとして、世界中の顧客から高い評価を得ている。

 

 


【図表】金属3Dプリンターの市場と展望 出所:AM POWER調査より伊福精密作成

 


 

まなびのポイント1:金属3Dプリンターの得意領域と伊福精密の戦略

 

【図表】のように、金属部品市場の中の高付加価値部品市場は拡大予測である。同社の代表取締役社⾧・伊福元彦氏は、日本国内で優秀な技術者が減る10年後に、金属3Dプリンターの需要が拡大すると予測している。

 

金属3Dプリンターは速いスピードで試作・開発ができ、鍛造品と同じ強度を出すことができるため、治工具・ツール開発・製造補助具などの清掃に適している。また、設計者が不在となった製品でも、リバースエンジニアリング(製品や部品を解析して図面を描き出すこと)と3Dプリンターの組み合わせによって、低コストでの製造が可能となる。

 

同社は、一時的にブームとはなったものの、日本の製造業界ではまだ広がりが見られない3Dプリンター市場の活性化のため、既存工法では不可能な形状や機能を持つ独自製品を開発し、展示会などで発表・販売している。

 

 


金属3Dプリンターの可能性を追求するデザイン雑貨ブランド「OshO」の日本酒を愉しむ器「Syuki」。日本の伝統芸術をモチーフにしながら、金属3Dプリンターでなければ表現できない独自の魅力を形にしている

 

 

 

まなびのポイント2:新時代の「デジタル倉庫サービス®」

 

デジタル倉庫サービス®は、新時代の製造業のビジネスモデルとして、同社が2019年に提供を開始したサービスである。リバースエンジニアリングによって金型を3Dデータ化し、伊福精密と顧客の共有クラウドでデータを管理する。

 

これにより、顧客は金型を物理的に保管しておくコストが不要となり、いつでも使いたい金型を1点から再作成することが可能になるだけでなく、サプライチェーンリスクも解消され、BCP(事業継続計画)対策になる。また、最終ユーザーに最も近い製造委託先で製造・発送を行うため、輸送コストも削減できる。

 

同サービスの活用は、次の有事に備えた工場(=レジリエンスの高い生産現場)の構築につながる。災害時や技術者不足など、どんな状況下でもものづくりを継続でき、また、日本の高度な技術を可視化・継承していくという面でも価値がある。顧客の持続可能なビジネスモデル構築を支援し、効率化と柔軟性を向上させる革新的なソリューションと言えよう。

 

 


「デジタル倉庫サービス®」では、全データを共有クラウドに保管。顧客はいつでもデータを活用できる
出所:伊福精密講演資料