【第4回の趣旨】
デザイン経営モデル研究会では、秀逸なデザイン経営モデルを持つ様々な企業・団体の現場を「体験」する機会を提供することで、研究会のテーマでもある「体験価値」と「自社らしさ」を創る1つの資源であるデザインの力を持って、差別化と高収益を実現するためのヒントを提供している。今回は、お茶の井ヶ田株式会社代表取締役の井ヶ田健一氏に、創業104年の老舗企業が取り組む“四方よし”の製茶事業の地域共創6次化ブランドモデルについて講演いただいた。
開催日時:2023年3月26日(東北開催)
代表取締役 井ヶ田 健一 氏
はじめに
井ヶ田グループは、お茶・菓子の製造・販売を手掛ける、創業大正9年(1920年)の100年カンパニーだ。グループ従業員数は約650名を超え、宮城を中心に東日本で47店舗を運営する。
お茶の井ヶ田株式会社は、グループの中でお茶・菓子の小売・卸売、飲食店運営を担う。
創業100年を超えるお茶屋として「品質本位のお茶づくり」を掲げ、徹底した品質管理、契約農家と協力し上質なお茶の製品化にこだわってきた。お茶以外にも抹茶を生かしたスイーツなどの新しい取り組みに挑戦している。
中でもヒット商品である生クリーム大福「喜久福」は、店舗展開や引き合いを各段に増やすこととなった。某少年誌連載中の漫画の中で取り上げられ、アニメが放送されるとECの売上増加、全国のスーパー・生協からの企画販売依頼など相次いだ。
お茶の井ヶ田創業の歴史を振り返る広告の数々。
創業5年目の1925年には新聞広告を出していたのが分かる
まなびのポイント 1:ビジョンの実現
「観光立脚型の場所でビジネスを始める」というのが、従前より抱いていたビジョンだ。
井ヶ田グループは、全社員で5年後の目標を描き、数字にブレイクダウンし、具体的なアクションプランを策定した手帳を作成している。手帳には社是、事業定義、経営理念、ビジョンを載せ、社員のエンゲージメントを高めている。25年前に開始した取り組みであるが、当初から記載されていたのが、地域社会への貢献である。
「日本の良き食文化と暮らしを地域と協力し、次の世代へ継承する。東北の観光の窓口である秋保の地から、地域情報の発信者となる。農業が魅力的な仕事として活性化し、持続可能で豊かな地域を創り上げる。」15年越しにビジョンを実現することとなる。秋保の地域情報発信拠点として、秋保ヴィレッジは設立された。
まなびのポイント 2:地方分散型社会をデザイン
秋保ヴィレッジは、農産物直売や土産品、レストランや児童向けの遊具がある、秋保の人気のスポットとなっている。面積11,500坪、建物面積は1階480坪、2階100坪と広大な施設となっているが、これには理由がある。農産物の直売施設・道の駅はすでに飽和状態であり、生き残れないためである。登録生産者もオープン時の60名から今では200名を超えるほど、地域の農業にとり欠かせない施設である。
しかし事業開始の際は、複数の課題に直面していた。市街化調整区域、震災後の建設費高騰、運営ノウハウの不足、そして社内と社外のステークホルダー(旅館・住民・農家)との調整である。行政からの許可をもらい、地域の農家から農産物を出品してもらいオープンにこぎ着けた。
秋保ヴィレッジの様子。地域の農産品、特産物が並ぶ
まなびのポイント 3:共創プラットフォームをデザイン
平成28年度、秋保ヴィレッジは地域の発展や市民生活の向上に貢献した仙台市内の中小企業を表彰する「四方よし」企業大賞を受賞。雇用や納税もさることながら、秋保ヴィレッジは秋保に欠かせない存在となっており、営利事業と社会貢献を追求し続けている。各方面からの注目も集まり、行政や大型商業施設からも声がかかる。道の駅の運営等の依頼や商業施設からの催事とりまとめ出店依頼等も受けるようになった。
発信力を利用して、自社のみならず地域のメーカーの拡販にも貢献する。秋保ヴィレッジの展開もあり、近年は秋保地区には、ワイナリーや米国のNo1クラフトビールメーカー、リゾート施設も進出するなど、共創プラットフォームをデザインしている。
大型商業施設にも出店する