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研究リポート

ライフスタイルビジネス研究会

変容する社会課題や顧客課題を的確に掴み、ドメインとバリューチェーンの拡大を切り口にした新たな「ライフスタイル価値」を創造するための真髄に迫ります。
研究リポート 2024.06.13

この島で「わったーアイス」と言われ続けるために

フォーモストブルーシール

【第4回の趣旨】
ライフスタイルビジネス研究会の今期のテーマは「-ライフスタイルカンパニー100社の創造-10年後のビジネスモデルをデザインしよう」である。「①コングロマリットモデル(単一から複数ドメインへの複合化・多角化するモデル)」「②マルチソリューションモデル(複数の技術や情報により課題解決するモデル)」「③コネクテッドモデル(自社・顧客・社会をつなぎ共創し続けるモデル)」の3つをテーマとし、第4回は「③コネクテッドモデル」を実践している2社をゲスト講師としてお招きし、ご講演いただいた。また、体験価値を体感するためにフォーモストブルーシール豊崎店を視察した。

開催日時:2024年3月21日(沖縄開催)

 

 

フォーモストブルーシール
取締役会長 山本 隆二 氏

 

 

はじめに

アメリカ生まれ沖縄育ちのアイスクリーム製造販売会社であるフォーモストブルーシール

 

同社は沖縄に駐留する米軍関係者の生活に欠かせない乳製品を供給するため、アメリカ合衆国との契約の下、具志川市天願(現うるま市)の米軍基地内で1948年に「フォーモスト」として創業した。その後、1963年に米国インターナショナルデイリーズ社の関連会社として設立、1976に現在の「フォーモストブルーシール」へと社名を変更した。沖縄地域で長く親しまれてきた「ブルーシール」がどのように沖縄地域や住民と接点を持ち、共創したのかを学ぶ。

 


 

まなびのポイント 1:「沖縄」を生かしたバリューチェーン

同社のアイスクリームは、原料に沖縄の素材を多く使用して「沖縄」を生かした価値創造の仕組みがある。競合他社ではアイスクリームに動物性油脂を使うことが少なくないのに対し、同社のアイスクリームは植物性油脂を使ったラクトアイスだ。そうすることで、沖縄の風土に適した特徴的な味わいが生まれ、他社との差別化を図っている。また、沖縄地域内に自社の製造拠点や自社の物流システムを設けることにより、台風などの自然災害が起こっても、安定的に同社のアイスクリームを供給できるよう整備されている。沖縄県内に多くの店舗や300名以上の従業員がいることによって、多様なチャネルによる顧客接点の創出やきめ細かなサービスを実践できることも強みだ。

 


バリューチェーン別の強み(出所:フォーモストブルーシール提供資料)

 

まなびのポイント 2:うちなーんちゅ(沖縄県民)のライフイベントとの接点

同社のアイスクリームは、沖縄県民に古くから愛されている。その要因の1つは、うちなーんちゅ(沖縄県民)のライフイベントや楽しい思い出に接点を設けているからである。例えば、毎年7月末には約9000個のアイスクリームを沖縄本島中の小中学校の給食へ全社員で配達するイベントが挙げられる。 同社のトラックが学校に入ると、授業中にもかかわらず窓から手を振ってくれる生徒がいるほど喜ばれているという。夏休み前という小中学生にとって「ハレの日」にブルーシールのアイスクリームが思い出として印象に残り、沖縄県民にとって同社のアイスクリームは特別なものとなる。この取り組みは、配達をする社員にとっても大切なイベントである。エンドユーザーとの触れ合いが同社の一員として誇りを持てる機会となり、エンゲージメントの向上につながっている。

 


沖縄県民のライフイベントとの接点(出所:フォーモストブルーシール提供資料 )

 

まなびのポイント 3:在るべき姿を再定義し、沖縄県民のNo.1ブランドへ

コロナ禍の2020年、フォーモストブルーシールでは自社の在るべき姿を「沖縄県民に認めてもらってこそブルーシール」と定義した。定義を踏まえた上で、「魅力ある沖縄素材を積極的に使用」「自治体・県内民間企業協業の開発」「店舗の刷新」「生活導線上の接点拡大」「情報発信の強化」といった5つの施策に取り組んだという。その結果、2022年に沖縄県民を対象とした調査で「今後食べたいメーカーNo.1」「もっともよく食べるメーカーNo.1」「親しみのあるメーカーNo.1」など、7つのNo.1を獲得した。厳しい環境においてこそ自らの在るべき姿を再定義し、やるべきことの集中と選択を行うことで、沖縄県民に愛されるブランドをより強固なものにできたのである。

 


ブルーシールの7つのNo.1 (出所:フォーモストブルーシール提供資料 )