【第1回の趣旨】
ビジネスモデルイノベーション研究会では、「両利きの経営」における「知の探索と深化の融合・結合の実践」をテーマに、さまざまな分野における秀逸なビジネスモデルを構築し、成功している優良企業を視察訪問している。
第11期のテーマは、「Business Liberal Arts -事業・戦略・経営にイノベーションをもたらす本質的素養の探求-」。第1回は、ダイワハイテックスとスマイルズの講話、視察を通じて、業界でパイオニアとして成長している企業の取り組み、成長・高収益ポートフォリオ経営の実践のポイントを学んだ。
開催日時:2024年2月21日(東京開催)
クリエイティブ本部 本部⾧ 吉田 剛成 氏
はじめに
スマイルズは、2000年に三菱商事のコーポレートベンチャー0号として設立以降、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」をはじめ、「PASS THE BATON」「giraffe」「100本のスプーン」「刷毛じょうゆ海苔弁山登り」など、「世の中の体温をあげる」事業を創造してきた。
設立24年を迎えた今でも、既存事業のイノベーションと共に、新たな事業の立ち上げや、外部へのコンサルティング、プロデュースを進めるなど、さまざまなチャレンジを推進するクリエイティブ集団として成長している。
今回は、社員の圧倒的な熱量を生み出す組織風土の醸成、継続的に新規事業を立ち上げる際に生じる壁を乗り超えるポイントについて、スマイルズ クリエイティブ本部本部⾧ 吉田剛成氏より学んだ。
スマイルズの集合写真
まなびのポイント 1:事業戦略としての多角化ではなく、“やりたいこと”を続けた結果の多角化
大企業での新規事業開発によくあるケースとして、①失敗を許されないお題目として取り組んでいる新規事業、②チームメンバーが後ろ向きに進めている新規事業、この2つのケースが散見される。このようなケースは、失敗できないため誰もやりたがらない、広告頼りでコストばかり増える事業ができてしまう原因となる。
スマイルズにおいて、新規事業は「自分がやりたいこと」が重要視される。やりたいからこそ会社としての意義や事業性を後付けでも必死に考えて、実現に向けた行動を行うのだ。また事業は簡単にはいかない。「やりたいこと」であれば、粘り強く向き合い続けられると言う。
現在は事業化しているのり弁事業は、ネクタイ事業担当者が事業化したいという思いを持って行動を起こし、会社に事業提案を行い、会社として取り組むことが決定した。圧倒的な熱量を持って取り組むことで、周りを巻き込み新たな事業を創り出すことができる。
スマイルズがこれまでに立ち上げた事業
まなびのポイント 2:イノベーティブな組織風土の醸成
論理的な判断からユニークな考えは出てこない。同社は、個人の経験・価値観を起点とした事業を大切にする。そして、個人起点の事業を会社としてやると決め、やりたいことの言語化と共有を行い、組織としての経験値を高める。組織として共同実行を積み重ねることで、価値観を共有し、カルチャーが築かれるのだ。
同社は、そこで満足するのではなく、新たな個人の経験・価値観を組織に取り入れ続けることで、組織・個人に刺激を与え、意識的にできたものを壊して、安定させることなく新たなものを生み出し続けている。個人の経験、組織の経験、風土への定着、組織・個人の刺激、というサイクルで破壊と創造を繰り返すことで、イノベーティブな風土を醸成し続けている。
創業者の遠山正道氏が2005年に描いた事業計画書
まなびのポイント 3:「実行が重要」。何かを行えば、何かが起こる
不確実性が高まり続ける経営環境において、必ず上手くいくビジネスプランは存在しない。だからこそ、新たなことに取り組み、実行することに価値がある。
同社では、結果に関わらず行動に移す人間に「実行する人」という信頼が生まれる。その際、会社として新しいことへ挑戦するための承認は、“信頼貯金”がなければ難しい。
同社は、「何かを行えば、何かが起こる」ということを念頭に、小さくても、目立たないところからでも、何か実行することを大切にしている。
新たな挑戦にはリスクを伴うが、一方で、何もやらないことも将来的なリスクになるということを理解して、自らを陳腐化させないことが重要である。
オフィスの入り口にはカウンタースペース、社内にはアート作品などが多数展示