メインビジュアルの画像
研究リポート

ウェルビーイングでビジネスを成長させる研究会

新たな時代で勝ち残るための生活者視点・お客様視点の事業戦略をウェルビーイングの視点から学びます。
研究リポート 2024.05.27

ウェルビーイングトランスフォーメーション(WX)と新産業共創

博報堂

【第2回の趣旨】
タナベコンサルティングの「ウェルビーイングでビジネスを成長させる研究会」では、ウェルビーイングを中心としたビジネス展開や、ウェルビーイング視点で価値創造を行っているさまざまな企業の視察を通じて、ウェルビーイングでビジネスを成長させるヒント、あるいは事業構造を変革するきっかけをつかむ機会を提供している。
第2回は、前回に引き続き「ウェルビーイングビジネスを体験・体感する」をテーマに、2社のゲスト講師から自社・事業の成長の歴史と成功ポイントを伺うとともに、ウェルビーイングビジネスのターゲットや商品についてディスカッションを行った。

開催日時:2024年4月16日(東京開催)

 

 

 

株式会社博報堂
ミライの事業ビジネスユニット ビジネスデザインディレクター 堂上 研 氏

 

 

はじめに

 

博報堂および博報堂メディアパートナーズの「ミライの事業室」は、生活者発想とクリエイティビティで、新しい社会と産業を創出する新規事業開発組織である。従来の事業領域である広告・マーケティングビジネス以外で社会課題を解決し、世の中をウェルビーイングにする新しいビジネスをデザインすることをミッションとしている。活動としては、どれだけ脱炭素に貢献しているかを可視化する「Earth hacks」、地域に必要なものへの出資者を募り、行政に代わって事業運営サポートを行う「good pass」など、さまざまなウェルビーイング事業を世に送り出している。

 

研究会参加者は、以下の2点をゴールとし、ウェルビーイング視点で事業価値を創出するために着目すべきことを研究した。

 

①国も産業界も地域も、生活者もウェルビーイング・トランスフォーメーション(WX)が起こっていることを実感する。

②ウェルビーイング共創社会の実現に向けて、ウェルビーイングにもっと関心をもつ。

 


「ウェルビーイングはそれぞれの捉え方でよい」と話す堂上氏(左)。会場では講師も会員も着座し、終始リラックスした雰囲気での学びとなった

 


 

まなびのポイント 1:ウェルビーイングの市場規模は5.6兆ドル(750兆~830兆円)

 

「これからは幸せを量産する会社になる」。ある著名な経営者の発言をきっかけに、パーパスや経営方針でウェルビーイングを表現する会社が現れ始めた。ウェルビーイングという考え方は、DXと同様に、企業が追求しなければならない時代となっている。

 

グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI、国際ウェルネス機構)の調査結果によると、ウェルビーイング産業の市場規模は2022年で5.6兆ドル(750兆~830兆円)となっており、今後も伸長する予測である。

 

ウェルビイーング事業化の視点として、コロナ禍において「つながり」が重視された背景から、人と人、企業と行政など相互のデータを共有(協業)し、そのデータをヒントに事業展開(競争)へとつなげる「2階建て方式」の共創が挙げられる。また、社内でのウェルビーイング実現には、良好な人間関係構築のために、苦手なことをオープンにし合い、相互サポートの中で「ありがとう」が言える組織をつくることができるかが大切である。

 

 


ウェルビーイング事業は「2階建ての構造」で展開する必要がある
出所:博報堂講演資料

 

 

 

 

まなびのポイント 2:生活者データの分類とウェルビーイング形成

 

博報堂は過去30年、生活者約12万人のデータを取り続けてきた。そのデータを基に、ミライの事業室は、「幸せ」と感じる因子を3×7のカテゴリーに分けたウェルビーイング診断指標「主観的ウェルビーイング21因子」を開発。

 

さらに、この因子を活用して行った生活者調査をもとに、産業技術総合研究所の確率モデリング技術「PLASMA」によるAIクラスター分析を行った結果、①スタイリッシュ・ウェルビーイング層、②脱ストレス・ウェルビーイング層、③身近な非日常・ウェルビーイング層、④セレンディビティ・ウェルビーイング層、⑤ポジティブ・ウェルビーイング層という5つのクラスターを抽出した。これにより、一人一人のウェルビーイングのインセンティブを設計しやすくなった。

 

 

 

主観的ウェルビーイング21因子。ウェルビーイングな生活をするために、何が大切かを知っておくことが重要と捉え、「ファイナンシャルウェルビーイング」は含めていない
出所:博報堂講演資料

 

 

 

 

まなびのポイント 3:ウェルビーイング・コミュニティ・メディア「Wellulu」

 

これからの生活者は、メタバースなどのウェブ上、所属する企業、副業など、同質な「個」で形成される複数の「分人コミュニティ」に所属するようになり、企業は分人コミュニティとつながっていく。これが共創につながることから、ウェルビーイング実現のために分人コミュニティは欠かせない存在となる。これが、博報堂の「メディア事業」とは別の「生活共創業」としての事業領域である。

 

このような共創によって生み出されたウェルビーイングに資する事業の一つが、「気づいたら、ウェルビーイング」のコピーで展開するデジタルメディア「Wellulu(ウェルル)」である。パーソナライズドされた新しいウェルビーイング・コミュニティ・メディアとして、ミライの事業室が2023年3月に立ち上げ、初年度は360以上の記事をアップした。主観的ウェルビーイング21因子がベースとなっているため、サイトに訪れた人に適した記事が表示されるようになっている。Welluluを訪れると、自身に適したウェルビーイング情報が得られるのである。

 

※「分人:dividual」とは、「個人:individual」に代わる新しい人間のモデルとして提唱された概念。対人関係ごと、環境ごとに分化した、異なる人格のこと。中心に一つだけ「本当の自分」を認めるのではなく、それら複数の人格すべてを「本当の自分」だと捉える

 

 


主観的ウェルビーイングによるクラスター分析 出所:博報堂講演資料