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研究リポート
食品価値創造研究会
AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート 2024.05.08

~秘伝のたれを守り続けて50年~ 上州御用鳥めし弁当400万食の売上を支えるビジネス戦略の秘訣:登利平

【第1回の趣旨】
今期の食品価値創造研究会では、「アフターコロナのEATトレンドを学び、持続可能な食事業に進化する」をテーマに、従来の常識・手法・商習慣に捉われることなく、食の*“E・A・T”視点で先進企業から学びを得ることにより、アフターコロナ環境を乗り越え、持続可能な食事業に進化することを目指している。第1回の群馬開催のテーマは『技術進化による付加価値向上』である。自社の強みを磨くための“独自の技術進化”を続けることで高付加価値を実現した2社を訪問させていただいた。食の高付加価値ブランドをどのように築いたのか、特色ある高付加価値企業の事例を群馬から伝えていく。

開催日時:2024年3月1日(群馬開催)

 

 

~秘伝のたれを守り続けて50年~ 上州御用鳥めし弁当400万食の売上を支えるビジネス戦略の秘訣:登利平

 

株式会社登利平
代表取締役 中村 哲也 氏

 

 

はじめに

 

株式会社登利平は、「上州御用鳥めし」として知られるお弁当を主に群馬県内にて製造、販売している。また、レストランでは、おなじみの鳥めしはもちろんのこと、バリエーション豊富な定食や一品料理などさまざまなメニューを楽しむことができ、提供数量はなんと年間400万食に及ぶ。

 

今や群馬県民のソウルフードともなった鳥めしだが、ここまで愛される存在へと商品を成長させることができた背景には、商品への飽くなきこだわり、また、企業として大事にしてきたさまざまな想いが詰まっている。

 

そして、会社としても成長を続け、2022年には創業50周年を迎え、直近期では初めて売上高50億円を突破。その成長過程には、どのような歴史・こだわり・戦略があったのか。

 

アスリート社員として登利平に入社し、現在は三代目として同社のバトンを受け継いだ代表取締役・中村 哲也氏にお話を伺った。

 

 

登利平の看板メニューであり、群馬県民のソウルフードともいうべき存在となった「上州御用鳥めし」。門外不出、秘伝のタレが半世紀以上にわたり脈々と受け継がれている。
登利平の看板メニューであり、群馬県民のソウルフードともいうべき存在となった「上州御用鳥めし」。門外不出、秘伝のタレが半世紀以上にわたり脈々と受け継がれている。

 


 

まなびのポイント 1:上州御用の鳥めし 誕生の歴史と背景

 

登利平の始祖は、大正末期、芦川 良三氏が東京・北千住に開業した小料理店にまで遡る。良三氏は戦時中に店を前橋に移転させ、鶏肉販売店として運営。のち、1953年には良三氏の娘婿であった芦川 讓氏が暖簾分けの形で新生・登利平を初代として開業した。当時から「鳥重」が人気を博し、讓氏はこの量産を志向。1972年、現在に至る会社組織として有限会社登利平が発足すると同時に、前橋市内に調理センターを開設した。

 

また、1983年に開催された群馬国体では、登利平のお弁当を供給することに成功。「鳥めし」の認知度はますます高まっていった。

 

1992年には、 1時間に8,000食もの鳥めし弁当製造が可能な本部受注配送センターが完成。現在は本社・同センターのほか、群馬を中心に31店舗による計33拠点で事業展開している。

 

年間400万食に及ぶ鳥めしの供給量は、換算すれば群馬県民が1人当たり年間で2回食べている計算になると言い、まさに名実ともに群馬県民のソウルフードである。

 

前橋市内にある登利平本社。レストランとして各メニューを提供するほか、1階ではお弁当の販売も行う
前橋市内にある登利平本社。レストランとして各メニューを提供するほか、1階ではお弁当の販売も行う

 

 

 

まなびのポイント 2:「秘伝のタレ」が生み出す“50年”の秘訣

 

今や群馬県民のソウルフードたる鳥めしだが、そこに詰まったこだわりの最たるものが「秘伝のタレ」である。香り高くほんのり甘い上品な味わいを持つこのタレは、先代が試行錯誤の末に完成させた。今日に至るまで壺の中で半世紀以上にわたり受け継がれ続けており、そのレシピは文字通り門外不出。なんと中村氏ですら全く知らされておらず、創業家の流れを汲む「タレの守り人」にのみ受け継がれている。

 

また、タレの他にも、鳥めしの普遍的な人気の背景には「食べる人への行き届いた配慮」がある。鳥めしの弁当箱は昔から、女性や子どもが持ちやすいサイズ・軽さで設計され、容易に片手で持って食べることができる。加えて保温性が高く、箱のフタだけで水蒸気を取り除く仕組みになっているそうだ。こうした工夫は運搬や食後の処分まで簡単にしている。

 

さらに、配送オペレーションの改良により「当日キャンセルOK」となっている。これらのお客様ファーストなこだわりが、さまざまな屋外イベントや行楽において一番に鳥めし弁当が指名されるまでになったポイントであると考えられる。

 

50周年を記念して制作したドラマ 「上州登利平 たれ守り衆の50年」
50周年を記念して制作したドラマ 「上州登利平 たれ守り衆の50年」

 

 

 

まなびのポイント 3:400万食の売上を支えるビジネス戦略の秘訣

 

中村氏は、陸上競技の元日本代表選手。アスリートとして陸上競技を続けるフィールドを求め、縁あって登利平に入社。そこには先代・芦川 讓氏の出会いがあった。讓氏の人柄に魅了され、「この人についていこう」と思いを強めていった中村氏に、代表取締役として社をけん引する今、登利平が大切にする思い・ビジョンについて伺った。

 

Ⅰ.やってはならない三原則 (美味しいお食事、お弁当を安心・安全にお届けすることに注力する)

【価格競争】【無理な規模の拡大】【何でもありの品揃え】

 

Ⅱ.今後の展望

・変わらないために、これからも変わり続ける
・お客様第一主義(B to C → C to C) ※お客様がお客様を呼んでくださる
・人口減少社会に対応した会社運営
・社員の待遇改善
・協力会社を大切にする(無理な単価設定はしない)
・働く人に喜んでもらえる会社

 

創業以来変わらぬ「タレ」と「志」という、他にはない際立ったこだわり。まさに、「クオリティリーダーシップ」による高付加価値な食事業を、登利平は実践し続けているのである。

 

群馬県のイメージを背負う責任を捉え、愛される企業づくりを主眼にCSR活動を実行している
群馬県のイメージを背負う責任を捉え、愛される企業づくりを主眼にCSR活動を実行している